大ヒット作『アベンジャーズ』や、第85回アカデミー賞にて監督賞、撮影賞、視覚効果賞、作曲賞と4部門を受賞した『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』など、ハリウッド映画では巧みなCG表現が使用され、フィクションの世界を限りなくリアルに表現している。今回は、そんなハリウッド映画の制作現場で行われているCG制作の過程をまとめて紹介する。

小さなボートにトラと少年が同乗するあり得ないシーンを「現実」に

ヤン・マーテルのベストセラー小説「パイの物語」を原作とした3D映画『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』。本作は第85回アカデミー賞で撮影賞、視覚効果賞を受賞するなど、その映像表現は高く評価されている。というのも、この同作品はCG技術なくしては実現できない。主人公である少年"パイ・パテル"とどう猛なベンガルトラが、太平洋を漂流する小さな救命ボートに同乗する…というストーリーだからだ。プロダクション・デザイナーを務めたデヴィッド・グロップマンは、「3D映画の動物は大抵光沢のある見かけになるものだが、『ライフ・オブ・パイ』の場合はそうじゃない」と語るなど、その出来映えに大いに自信を持っている。その甲斐あって制作陣の目指した"薄気味悪いほどの自然なリアリズム"が映像となったと言えるだろう。

サム・ライミ監督こだわりのCG制作過程とは?

映画『スパイダーマン』3部作の監督のサム・ライミ監督と、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010年)のスタッフがタッグを組んだ映画『オズ はじまりの戦い』。『スパイダーマン』シリーズからサム・ライミ監督と制作を共にしてきたシニア・アニメーターの佐藤篤司氏は、この作品の制作を振り返り、「サム・ライミ監督がラフのアニメーションの段階からすべて立体映像でチェックをしたいという要望があったので、単純に考えてもレンダリングの時間が2倍になり、その結果、どうしても通常よりも制作に時間がかかりましたね」とコメント。また、日本のCGアニメの制作過程について「クリエイター本人も満足していないまま"完成"してしまっているものが多いのではないか」と言及し、日本人クリエイターがハリウッドで活躍するには、納期を言い訳にせずクオリティーを高めるべきだと語っていた。

アイアンマンを作り上げる過程をつぶさに公開

全世界興行収入は15億ドル以上、日本でも「日本よ、これが映画だ。」という強烈なコピーなどで話題となった映画『アベンジャーズ』。マーベル・コミックスのヒーローが多数登場する同作品の中でも、ストーリーの中心となるアイアンマンは、そのほとんどのシーンがCGで作られている。「(アイアンマン/トニー・スターク役の)ロバート・ダウニーJr.が"パワードスーツ"を着て演技することはほぼなかった」と語るのは、ジョージ・ルーカス監督の作ったCGプロダクション ILMに所属し、この作品ではクリーチャー・ディベロッパーとして活躍中した山口圭二氏。衣装としてスーツは存在するものの、フィット感が足りないため、ライティングの参考にすることはあっても、映像加工の段階でスーツを消し、CGで新たにスーツを描いていく手法を取っていたという。そして、実写の役者の動きとCGを合わせるのがとても大変だったと当時の苦労を語った。

若き日の俳優をCGで作り出す際の制作秘話を公開

当時の最先端のCG技術を駆使して制作された映画『トロン: レガシー』。映画『マトリックス』シリーズや、第81回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』の映像制作を担当した米VFX制作会社、Digital Domain(デジタル・ドメイン)。そのリードテクニカルディレクターとして多くの作品に携わってきたCGクリエイター・三橋忠央氏は、同作品の"新たな挑戦"として、クルーというキャラクターの頭部の制作を挙げた。これはケヴィン・フリン役のジェフ・ブリッジスがおよそ35歳だった当時の風貌を再現したもの。映画『ベンジャミン・バトン』ではブラットピットが80歳になったころの風貌を作った。しかし「"80歳のブラットピット"は存在しないため、ある意味空想の人間を作ったことと同じこと」だと語る。その一方で、"35歳のジェフ・ブリッジス"に関しては、「観客みんなが知ってるということは正解がわかってしまっているので、ブレることができないんです。そこが今回、新しいチャレンジだったと思います」と、その挑戦の難しさを振り返っていた。