惑星状星雲に存在する炭素質ダストのイメージ図。サッカーボール状のC60 フラーレン。背景は「すばる望遠鏡」で撮影された惑星状星雲「M57」 (ドーナツ星雲) の赤外線画像
(提供:国立天文台)

地球から「おおいぬ座」の方向に6,800光年離れた惑星状星雲「M1-11」に、60 個の炭素原子がサッカーボール状になった「C60フラーレン」のダスト(ちり)が、地球 100 個分の質量として存在していることが、台湾中央研究院・天文及天文物理研究所の大塚雅昭研究員や国立天文台などの共同研究で分かった。研究成果は、米国の天体物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル」(2月10日号)に掲載された。

C60フラーレンは地球上では極めて安定した結晶体で、宇宙空間でも2010年にアメリカの赤外線天文衛星「スピッツァー」の観測により初めて確認された。大塚さんらは、惑星状星雲を中心に300天体以上の分光データを解析し、複数の惑星状星雲からC60フラーレンに特有な波長の光(輝線)を見つけた。その1つがM1-11で、さらに国立天文台の「すばる望遠鏡」や岡山天体物理観測所などの、赤外線から可視光までの広い波長域の観測データを詳しく解析した。

その結果、検出されたC60フラーレンの輝線の強度比から、M1-11には地球 100 個分もの質量のC60ダストが存在すると計算された。ガスとダストからなる星雲と進化した“老齢”の高温星とで構成される惑星状星雲のうちでも、M1-11は惑星状星雲に進化してからわずか1,000年しかたっておらず、含まれる元素の組成比は、初期質量が太陽質量の1.5倍だった場合の予想値と一致することが分かった。

こうしたM1-11の元素組成比や初期質量、進化段階、C60ダストの総量と温度は、これまでにC60フラーレンが確認された他の惑星状星雲とよく似ており、炭素系ダストが豊富で若い惑星状星雲にC60フラーレンは存在しているようだ。これらのC60フラーレンは、水素がついた非晶質炭素の集合体が、惑星状星雲の中心星からの紫外線と強い恒星風によって細かく破壊され、水素がはがれて残った炭素同士が結合してできたと考えられるという。