北海道大学(北大)は2月12日、ヒトを含むほ乳類では血液細胞を作る働きを持っている遺伝子「ヘモゲン」が、鳥類でのみ性決定にも重要な働きを持つことを解明したと発表した。

成果は、北大大学院 理学研究院 生物科学部門の中田 智大氏(博士課程2年)、同 黒岩麻里 准教授らの研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東部時間2月12日付けで米国科学雑誌「米科学アカデミー紀要(PNAS)」に掲載された。

鳥類のオスはメスに選んでもらうためにさまざまな能力を身につけている。例えばインドクジャクなどではオスは鮮やかな飾り羽を持ち、それを用いて発情期にはダンスを踊ることが知られている。しかし、そうした鳥類におけるオスとメスで生じる性差はどうやって決定されるのかについては、基礎的な性決定メカニズムに関する情報が不足しており、不明点が多く残されている。鳥類とほ乳類では性決定メカニズムが異なるため、ヒトを含むほ乳類の性決定メカニズムの解明が進んだ現代でも、それをそのまま鳥類に持ち込むことができないためだ。

そこで今回は、鳥類に特異的に働く性決定のための遺伝子を見つけることを目的に研究が進められた。具体的な研究手法としては、性が決定される時期の生殖腺(将来精巣あるいは卵巣になる組織)において発現する遺伝子を、雌雄間で網羅的に比較した。この結果、ヒト(ほ乳類)では血液細胞を作るために働いており、性決定には無関係であることが知られている「ヘモゲン」がオスに強く発現していることが見出されたという。

この結果を受けて、研究グループではさらにニワトリを用いて、ヘモゲンの詳細な発現解析を実施したほか、トランスジェニック(遺伝子導入)技術を用いて、ヘモゲン遺伝子の機能の解析を行ったところ、ヘモゲンが、性決定の初期にニワトリのオスの生殖腺に強く発現していることが判明したほか、本来メスになるはずのニワトリ初期胚にヘモゲンを過剰発現させたところ、オスに性転換することが確認され、ヘモゲンには、鳥類のオス化を決める働きを持つことが示されたという。ちなみに、この機能はほ乳類にはなく、鳥類に特異的なものだという。

今回の研究成果を受けることで、将来的には例えばニワトリは鳥類の代表的なモデル動物だが、有用な産業動物(家禽)でもあり、もしオス/メスの産み分けが可能となれば、卵が必要な場合はメスの比率を、肉が必要な場合はオスの比率を高めるといったことが可能になると研究グループでは説明する。ただし、今回の成果は、まだ基礎科学研究のレベルであり、性がどのようにして決定されるのかなどの研究を今後進めることで、将来的には農学などへの応用も可能になることが期待できるようになるとしている。