東京大学 国際高等研究所 カブリ数物連携宇宙研究機構(カブリIPMU)は12月7日、大阪大学および金沢大学の協力を得て、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が打ち上げた小型ソーラー電力セイル実証機(太陽光宇宙帆船)「IKAROS」に搭載した日本独自の偏光検出器「GAP」を用いて、数10億光年彼方の「ガンマ線バースト現象」からの偏光を従来より高い精度で検出し、その長い旅路の間に光の偏りが測定できるほど光が回転していないことを明らかにし、「CPT対称性の破れ」があるとしても従来の予想の1000万分の1以下よりも遙かに小さい1000兆分の1以下であることを明らかにしたと発表した。
成果は、阪大大学院 理学研究科の當真賢二研究員、カブリIPMUの向山信治特任准教授、金沢大大学院 自然科学研究科の米徳大輔准教授らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、米国東海岸時間12月11日付けで米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンラインに掲載される予定だ。
ガンマ線バーストとは、数10億光年の彼方に端を発し、数10秒程度の間にわたって強烈なガンマ線が観測される現象であり、天空上で年間1000個程度発生する。そのエネルギーは強烈で、全宇宙で最も明るく激しい現象と言われている。ガンマ線バーストは数々の種族に分類されるが、その内ある種族に関しては、星が最期に崩壊する際に起こす超新星爆発の特殊なものであると考えられている。
そのガンマ線バーストで発せられた光(ガンマ線)は、前述したように地球に届くまでに何10億光年も宇宙を旅してくるわけだが、この超大スケールの宇宙からの光を使うことで、量子重力理論が対象とするような超ミクロのスケールでの時空構造を調べることが可能だ。
現在の地上実験で扱っているようなスケールにおいては、粒子と反粒子の役割を入れ換え、鏡に映し、時間の流れを逆向きにした場合の現象は、元の現象とまったく同じであることがわかっている。このことを「CPT対称性が保存されている」という。
しかし、アインシュタインの相対性理論と量子論の統一を図る「超弦理論」や「ループ重力理論」のような量子重力理論が予測するところによれば、超ミクロのスケールにおいては、時空構造が通常考えるものとはまったく異なり、この対称性が保たれていない(破れている)可能性があるのだ。
もし、この対称性が破れていれば、天体から光が伝わる長い旅路の間に効果が蓄積され、光の偏りが測定できるほど回転することになる(画像1)。今までの観測データでは、その効果は1000万分の1程度以下と見積もられていた。
画像1は、今回の研究理論の仕組みだ。宇宙で起きたガンマ線バーストの光は、その振動がある程度直線的に偏っている。それは左右回りの振動の重ね合わせで表せる。もし対称性が破れていれば、左右回りの振動の速度が異なり、その結果、光の直線的偏りがゆっくり回転することになるというわけだ。この効果は光の波長ごとに大きさが異なり、観測によって検出することが可能となる。
今回、IKAROS(画像2)に搭載されたGAPによって、非常に遠方のガンマ線バーストの光の偏りを従来より高い精度で検出することに成功し、偏りの回転がないことが証明された。この結果を受けて研究チームは、理論的計算を行ない、対称性の破れが1000兆分の1以下であるという、これまでで最も厳しい制限を課すことができたのである。
アインシュタインの相対性理論と量子論を統一する量子重力理論の構築は、現代基礎物理学の大きな目標だ。前述したようにこれまでさまざまな種類の統一理論が提唱され、盛んに議論されてきた。
今回の研究は、これらの理論が対象とするスケールにおいても基本的な対称性が保たれていることを証明したもので、このことは、対称性を破るような統一理論モデルを排除することになる。今後は、今回の研究の結果に沿うような理論モデルの構築が進み、統一の夢に近づくことが期待されるという。