東京大学(東大)は12月6日、神経細胞で細胞内の物質輸送を担うキネシンスーパーファミリータンパク質の1つである分子モーター「KIF5A」がGABAA受容体を輸送しており、この輸送機構が破綻することで「てんかん」が発症することを明らかにしたと発表した。

同成果は同大大学院医学系研究科細胞生物学・解剖学講座/分子構造・動態学講座の廣川 信隆 特任教授、同 武井陽介 准教授、同 中島一夫 特任研究員らによるもので、詳細は「Neuron」に掲載された。

てんかんは、大脳神経細胞の過剰な活動の結果、発作性の神経症状を繰り返す慢性の脳障害で、その発症頻度は高く、日本では現在100万人におよぶ患者がてんかんによる発作と、その発作が原因でおこる様々な生活障害に苦しんでいると言われる。

しかし、てんかんの原因解明はまだ不十分であり、様々な薬物療法、外科手術などが行われているが、残念ながら根本治療は確立されていないのが現状だ。

今回、研究グループでは、神経細胞の分子モーターの1つである「KIF5A」に注目して研究を行った。一般に分子モーターは細胞の中でいろいろな荷物を運ぶ"運び屋"とされており、多種多様な分子モーターとその荷物が知られているが、KIF5Aが専門に輸送する荷物はまだ見つかっていなかったためで、遺伝子欠損マウスを作成して観察したところ、このマウスは生後しばらくして激しいてんかん発作を繰り返すようになることが確認された。

詳しく調べたところ、マウスの脳波に著しいてんかん性異常波が頻発していることが確認された。脳内の神経伝達には興奮性神経伝達と抑制性神経伝達の2種類があるが、このマウスの脳を調査した結果、GABAA受容体を介した抑制性神経伝達が大きく損なわれていることが判明したほか、KIF5Aの"荷物"がGABAA受容体であり、KIF5AがGABARAP(GABAA receptor associated protein)というタンパク質を仲立ちとしてGABAA受容体を細胞内のゴルジ体から細胞表面へと輸送していることが示された。

また、実際に研究グループではKIF5Aを欠損した神経細胞の内部でGABAA受容体輸送が停滞している様子が共焦点レーザー顕微鏡で撮影することに成功し、KIF5A欠損神経細胞にKIF5Aを再び導入すると、GABAA受容体は再びシナプスへ運ばれるようになる様子も確認されたという。

これは、KIF5Aが欠損するとGABAA受容体のシナプスへの供給が止まり、抑制性神経伝達が低下するためKIF5A欠損マウスの脳では興奮性神経伝達と抑制性神経伝達のバランスが興奮側に傾き、神経ネットワークの興奮性が高まった結果として、てんかんが発生したことを示すものであり、研究グループではこの成果により、てんかん発病の分子レベルでの理解が前進することから、今後のてんかんの分子治療などの開発に向けた重要な手がかりになることが期待されるとコメントしている。

KIF5A遺伝子欠損マウスのてんかん発作の脳波(左)とそのときのマウスの様子(右)

神経細胞内部におけるGABAA受容体の輸送の様子