東京大学 医科学研究所は、「タンパク質間相互作用のデータセット(インタラクトーム)」における網羅性と信頼性の問題に同時に対処するため、次世代シーケンサ「Roche454Genome Sequencer FLX System(454sequencer)」と「in vitro virus(IVV)法」を組み合わせた「IVV-HITSeq法」を開発し、同方法での「インシリコ解析」で偽陽性を排除することで、世界レベルで信頼性の高いデータを得ることに成功したと発表した。
成果は、東大医科研・インタラクトーム医科学 社会連携研究部門の宮本悦子特任准教授、藤森茂雄特任研究員らの共同研究グループによるもの。研究の詳細な内容は、10月9日付けでオンライン学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
システム生物学や個別化医療において、次世代シーケンサの性能向上およびコストダウンにより、「マルチオミクス解析」に基づくさまざまな学術的な発見や医療現場での診断への展開などが見られるようになって来ている。しかし、マルチオミクス解析の1つとして所望されているインタラクトームは、未だ次世代シーケンサを有効に活用できていないため、カバー率(網羅性)の問題(偽陰性問題)と、インタラクトームデータ自身が抱える信頼性の問題の「偽陽性問題」があった。
そこで研究グループは今回、次世代シーケンサとIVV法を組み合わせた「IVV-HITSeq法」を開発(画像)。同方法でのインシリコ解析で偽陽性を排除することで、世界レベルの信頼性の高いデータを得ることに成功したというわけである。
最後のパート(画像1下部)は、偽陽性排除のインシリコ解析を行う部分だ。ゲノムへマッピングされた配列がどの遺伝子に由来し、それらの配列が各ラウンドで何コピー存在したかを、各配列が持つバーコード情報に基づいて計算することで濃縮の推移を明らかにするのである。
これらの結果から、初期値からの濃縮度合いおよび、ネガティブコントロールに対する差が統計的に有意(フィッシャーの正確確率検定でP<0.001)だったもの以外は偽陽性とするとした。
また「定量リアルタイムPCR」による事後検証と比較したところ、両者に高い一致率が認められた(正解率88%)。従来のサンガーシーケンサを用いた方法と比較して、偽陽性を約半分から1割に減少することができた形だ。このことは、数千回相当の定量リアルタイムPCRによる検証を省略できることを意味している。
今後は、がんをタンパク質の関係性システムとしてとらえるため、ツールを新たなマルチオミクス解析の1つとして活用し、抗がん剤などの刺激に対する「動的インタラクトーム解析」により「がんの個性」をあぶり出し、がんの性質を制御することを目指すとした。