埼玉県川口市JR蕨駅近くにある商店街の中に、ちょっと気の利いた靴工房「GRENSTOCK」(グレンストック)がある。オーナーは靴職人の五宝賢太郎さん。「小学生の頃から靴作りに興味があった」と語る五宝さんが何よりも大切にしているのが"お客様との対話"。ときには2時間以上も話し込んでしまうことがあるそうで、「お客様からいろいろな情報が入ってくることが何よりも楽しい」と語る。

靴職人 五宝賢太郎さん

――川口という街は昔から"職人の街"としても知られていますね。ここに工房を作られていることには、何か意味があるのでしょうか。

「靴職人の街」で言えば、浅草も有名ですよね。浅草には優秀な靴職人の方が昔から多くいて、お互いに切磋琢磨しながら技術を磨かれてきたようです。この川口は、戦時中に疎開先として職人の先輩方が多く移られた場所。その名残が今も残っています。独立して店を構えたのが25歳頃でしょうか。それまでに靴作り~修理に至る様々な工程を師匠(業界ではよく知られた靴職人・稲村有好さん)から引き継いで、オーダーメイドと修理の2本柱でやっています。

――オーダーに来られる方の特徴はありますか?

まず第一に「靴好き」という共通点があります。それにショップスタッフ、編集者や建築家、デザイン関係者などの方が多くて皆さん博識なので、オーダーの際にお話しするのがすごく楽しいんですよ。「日本で靴がはじめて履かれたのは1600年代、しかも女性用だった」なんて話が聞けるので、僕自身もすごく勉強になります。こうした人たちと話していると、会話のキャッチボールがどんどん速くなってきて、あるときイメージがバチっと共有できる瞬間があるんです。言葉の予測変換がピッタリかみ合うとでも言うのかな。僕は靴作りってお客様とのセッションだと思っています。フリースタイルジャズみたいに色んな方向に行くけどゴールで混ざり合ってひとつのものが出来上がる。こうなると靴のデザインってやっぱり面白いなぁと実感します。

――そうなるとオーダー方法にもユニークなものがありそうですね。

オーダーメイドの面白さがまさにその部分。人がイメージしている、あるいは頭の中にモヤっと霧がかった状態で存在する靴を具現化することが僕の仕事の“らしさ”だと思っています。例えば以前やった仕事では「富士山に登る靴が欲しいんだけどいわゆる登山靴は履きたくない。僕はニューバランスが好きなんだ!」と言われて、ニューバランスのテイストをもったハイカットの登山靴を作ったことがありました。足にピッタリ寄り添って心地よく履ける靴を作るのもオーダーのメリットですが、ショップには絶対置いてないような突飛な靴でもオーダーならできる。デザインを遊ぶ、世界に1足しかない靴を作ることもまたオーダーの良いところです。

――「昔見た映画で主人公が履いていた靴」なんてリクエストもあったり?

そうなるとスマートフォンで検索して写真を実際に見ながら、ソールや皮の色、素材を決めていきます。打ち合わせしながら手元で資料を検索できるので、スマートフォンはすごく便利ですね。実はこのスマートフォンも、お客様に勧められたものなんです。

――スマートフォンはどんな風に活用されているのでしょうか。

常用するのはカレンダーやラジオ、Youtubeといった定番アプリでしょうか。カレンダーにはその日の予定が入っているので、朝確認して夜は反芻のために使っています。スタッフ間とのスケジュール共有もしているので、GRENSTOCKの仕事には欠かせないですね。実は僕、“絶対音感”ならぬ“絶対時間”みたいなものがあって、時計やアラームって使ったことがないんです。その絶対時間が狂うのはお客様との対話の時間。こればかりは話に夢中になって予定時間を大幅に過ぎていた……なんてことが多々あるので、来店予約などはしっかりカレンダーに記録しています。で、一日の最後にはカレンダーを見ながらお客様の顔を思い出して、内容を反芻するんです。いや、反省の方が多いかな(笑)。とにかくお客様ごとに伺った内容をひとつずつ整理してデザインに昇華するためにも、この締めの反芻は大切です。

――五宝さんが持っている「GALAXY S2」のケースも素敵ですね。それはオリジナルですか?

これは僕の趣味が高じて作った雑貨 & ギャラリー「THOMAS STORE & Gallery」のオリジナルです。既存のプラケースに皮を接着してピッタリなものを作りました。この皮革は十数種類から選べるようになっていて、セミオーダーメイドで作れます。こういうことをしていくと、一見無骨なスマートフォンにも愛着が湧きますね。考えてみたら(GALAXY S2は)一般に世間でよく言われる"スマートフォンの不具合"も感じたことはないし、店内の奥まった場所でも電波の感度が良い。店にあるパソコンもほとんど使わなくなったような気がします。

五宝さんの使っているスマートフォン「GALAXY S2」とそのケース

――最近では画面上に直接ペンで絵を描けるスマートフォン(GALAXY Note SC-05D)もありますしね。

えっ? 本当ですか? それは面白そうですね。写真に直接描くことも出来ますか? (と実際にGALAXY Note SC-05Dを触ってみて)これは楽しそうですね。今ブログやFacebookの更新もほとんどGALAXYでやっているので、画面が大きいとこうした作業もラクになりそうです。

――仕事の補佐役として、スマートフォンに求める条件って何かありますか?

うーん、どうだろう。そんなに機械に強いわけではないし、今使っているGALAXYを使った印象しか分からないけど。毎日使うし、コミュニケーションツールとしても頼りにしているので、やっぱりヘビーデューティーであってほしい、ということはありますね。僕は液晶にフィルムを貼るのも好きではないので、液晶が強いものも良い。そういえばこのGALAXY、もう使い始めて1年くらい経つのに画面に傷が付いてないなぁ。そんなところも、GALAXYを選んで良かった、と思う理由なんです。

お客様の要望と靴職人としてのこだわりを昇華するため、何よりもコミュニケーションが大切なオーダー靴の世界。靴を語る五宝さんの表情は、くるくると変わっていく。「あぁ、この人は本当に靴が好きで、人が好きなんだ」と納得する瞬間だ。そのコミュニケーションツールとして五宝さんの傍らにあるGALAXY S2はレザーケースのGRENSTOCK仕様。愛着をもって使われていることが実感された。

撮影:伊藤圭