高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学、日本原子力研究開発機構、広島大学、早稲田大学、日立ハイテクノロジーズの6者は、最先端の「光高周波電子銃」と「超伝導加速空洞」を用いた「電子線形加速器」により、20MV/m以上の高電界での大強度電子ビームの加速に成功したと発表した。

健康で安心な暮らしを支える医療診断技術や地球環境を守る低環境負荷技術はますますその必要性が増している。これらの技術開発には、放射光施設と呼ばれる大型の高輝度X線発生装置を中心とした分析・観察装置群が必要不可欠だが、一方で、病院での高度医療診断などに利用できるよう、より身近で実用的な小型の高輝度X線発生装置も求められている。

そうしたニーズに応えるために、今回の研究では大型の高輝度X線発生装置とはまったく異なる「逆コンプトン散乱」原理を用いた技術が開発されてきた。逆コンプトン散乱とは、高エネルギー電子ビームでレーザー光子を散乱することによって、高エネルギー準単色γ線ビーム(高輝度X線)を生成を行う技術だ。ちなみに、逆コンプトン散乱はレーザーコンプトン散乱と呼ばれることがある。

今回の技術開発において高輝度X線を得るためポイントとなったのが、大強度・超低エミッタンス(エミッタンスが低い(小さい)ほどビームが絞れて光が明るくなる)の電子ビームを50MeV程度まで加速する点だ。今回、大強度超低エミッタンス電子ビームを発生させる光高周波電子銃と、その加速に必須の超伝導加速空洞が試作され、大強度電子ビームの加速に成功した次第である。

光高周波電子銃とは、高周波加速空洞の加速電界発生部に光カソード(陽極)を取り付けた1.6~3.6セルの高周波電子源で、10ps程度の真空紫外レーザーパルスによって光電子バンチ(ビーム粒子の塊)を光陰極上に生成すると同時に、電子銃空洞内で相対論的なエネルギーまで加速できる装置のことだ。

2台の9セル超伝導加速空洞を、加速モジュールと呼ばれる2Kの極低温に冷却可能な横置きの「液体ヘリウムクライオスタット(冷凍用断熱真空容器)」中に配置し、各加速空洞において40MV/m及び33MV/mの高電界印加を行う。

いうまでもないが、超伝導状態では空洞における電力損失が小さくなり、比較的小さな入力マイクロ波電力で、空洞内に強い高周波電場を維持したまま定常運転が可能で、加速ビームの平均出力を大きくできるという特性がある。

その後、実際に光高周波電子銃から電子ビームを入射して加速を行い、電子エネルギー40MeV、1パルス中に1万2000バンチ(目標は1万65000バンチ)、1バンチ中の電荷は41pC、パルス繰返しは5Hzを達成した。

この性能は、これまでのパルス当りの最大値2400バンチを大幅に超え、世界最大数となるものだ。これにより、加速された電子ビーム強度は従来と比較して100倍程度大きくすることが可能となった。これは、高電界超伝導加速空洞に基づく電子線形加速器として、実験室規模で安定運転が行われた日本初の事例だ。

研究グループは今後、電子ビームの一層の大電流化と安定化を図り、別途開発中の大強度パルスレーザービームとの衝突による高輝度X線ビーム(発光点寸法は約10μm)の生成を実現するとしている。

これにより、がんや微小動脈硬化の初期判断などの高度医療診断の普及に貢献するほか、環境触媒や電池材料のナノ構造解析等への利用を画期的に飛躍させることが期待されるという。

なお、今回、日本初の「高電界超伝導電子線形加速」を実現したことにより、従来は50m×50m程の巨大さだった「高輝度光子(X線)ビーム源」を10m×6m程度まで小型化することにも成功した。この小型化により、将来的には病院などに設置して、高度医療診断などへの利用に道を拓くものと期待されている。

画像は、今回開発された、次世代小型高輝度光子ビーム源試験装置だ。1.3GHz光高周波電子銃、2台の1m長の9セル超伝導加速空洞(矢印のクライオスタット中)、電子ビームを10μmまで絞り込んでレーザーパルスと衝突させる収束系、及びビームダンプからなる超伝導線形加速器である。

今回開発された、次世代小型高輝度光子ビーム源試験装置