日本マイクロソフトは、東日本大震災による被災地である東北三県(岩手、宮城、福島)の被災者を対象に、ICTスキル講習を通して就労支援を行う「東北UPプロジェクト」を開始し、2月20日~21日の2日間、仙台市にある同社の東北支店で、「東北UP IT講師養成研修」を行った。

「東北UPプロジェクト」は、東日本大震災の被災者を対象に、日本マイクロフトとNPO法人「育て上げ」ネットが協働して、ICTスキル講習を通して就労機会拡大を支援する取り組み。被災地では、現地のNPOが両者と連携してICTスキル講習を行う。

仙台市にある日本マイクロソフトの東北支店で行われた「東北UP IT講師養成研修」

今回行われた「東北UP IT講師養成研修」は、3月からの講習実施の準備として、現地のNPOで、ICTスキル講習の講師となる人を対象に実施するもので、日本マイクロソフトの社員および同社のトレーニングパートナーが講師を務め、主に指導法の習得を目指したもの。 講習会に参加したのは、ITスキル講習の提供、就労支援イベントへの参加促進などのプロジェクトを実施する被災地のNPO(@リアスNPOサポートセンター(釜石市)、いわてNPO-NETサポート(北上市)、Save Takata(陸前高田市)、BHNテレコム支援協議会(石巻市)、寺子屋方丈舎(会津若松市))に属する計14名だ。

「東北UP IT講師養成研修」に参加したNPO

14名は、ある程度のITスキルは持っているものの、これまでパソコン教室などの講師経験がある人は2名で、ほとんどが講師を務めるのは初めてだ。

講習2日目の21日には、5分間の模擬講義(ロールプレイ)が行われ、それまでの講習の成果が試された。リアスNPOサポートセンターの横澤京子さんは、Excel関数の使い方を、BHNテレコム支援協議会の阿部真司さんは、Wordでのビジネス文書の作り方を説明した。二人ともかなり緊張した様子だったが、説明する順番や手順を確認しながら説明を行っていた。とくに、指し示すジェスチャーを入れる、40-50代の男性に説明するなど、受講者のレベルを意識することに注意したという。

Excel関数の使い方を説明したリアスNPOサポートセンターの横澤京子さん

Wordでのビジネス文書の作り方を説明したBHNテレコム支援協議会の阿部真司さん

今回の講習では、「SFB」を意識するよう講師から指導があったようで、ロールプレイを行った二人からも「『SFB』を意識した」という言葉が聞かれた。

SFBとは、S(Situation:立場や状態)、F(Function:機能)、B(Benefit:利益)を合わせた言葉だ。初めてだと、ついついF(機能)を中心に説明しがちだが、講習を受ける人のレベルや状態を意識し、その機能を使うことによるメリットをきちんと説明し、受講者をやりたい気持ちにさせることが重要だという。

ただ、講師からは「『みなさんにとっては大変かもしれませんが』という言葉は、『自分にとっては簡単ですが』という意味になるので、『みんな大変なのですが』と、一体感を持たせる言い方のほうがいい、「2回クリックはダブルクリックを意味する場合もあるので、間隔をあけて2回クリックのほうがいい」など、細かな指導が行われていた。

ロールプレイの総評を行う二人の講師

BHNテレコム支援協議会の阿部真司さん

BHNテレコム支援協議会の阿部真司さんは、すでに地元でパソコン教室を開催しており、今回はさらなる就労支援に結びつけようと参加したという。阿部さんは「教室に来られる方は高齢の人が多く、初めてパソコンに触る人も多い。その中でも、女性の割合が8割でかなり熱心に通われている。また、現在テレワーク協会との連携もあり、テレワークの仕事に結びつけられればと思っている」と語った。

ただ、地元の求人は水産加工や建設関係が多いという。

それでも阿部さんは、「そういった募集が一段落すれば、ITが必要な仕事も増えてくると思うので、そこに焦点を合わせていきたい」と前向きに語った。


Save Takataの岡本翔馬さん

Save Takataの岡本翔馬さんは、現在、NPOの現地統括をしており、震災前は仙台や東京で仕事をしていたが、震災後は地元の陸前高田市に戻り、復興支援を手伝っているという。

岡本さんは今回のプロジェクトに参加した理由を、「陸前高田市は市街地の被害が多く、一般オフィスが減っている状況だが、ハローワークの条件では、WordやExcelのスキルを求められてくることが多い。これまでWordやExcelにまったく触ったことがない人でも、職に就くには、そういったスキルも必要になるので、そういった人に向け、IT講習会を開催したい」と語った。

また、「現在、復興に向けては市外の人の意見が多く、市内の人の意見が通りにくい状況なので、そういった声が届くような活動もしていきたい」と述べた。

寺子屋方丈舎の星和弘さん

寺子屋方丈舎の星和弘さんは、会津地方には福島原発の周辺から避難した人が多く、その人たちにパソコンを教えたいと参加したという。

そして、「避難している人は、地元に帰ることは無理でも、県内で仕事をしたいという要望が強い。そのためには、WordやExcelの知識も必要になる。中にはWordやExcelを使ったことがない人も多いので、『大丈夫、簡単ですよ』と、パソコンに慣れてもらうところから始めたい」と語った。

横澤京子さんは所属する@リアスNPOサポートセンターの活動について、「震災前はシャッター通りとなった街をどう再生するかが中心テーマだったが、震災後は復興支援の活動が中心になった」と説明。

リアスNPOサポートセンターの横澤京子さん

講習会の感想については、「自分は教えるときにすぐに手伝ってしまうので、それをせず、できるだけ言葉で伝えることが難しかった」と述べた。

また、東北UPプロジェクトについては、「地元では仮設(所)連絡員の募集もあるが、応募してきた人の多くは40-50代の男性で、もともと水産加工や漁師をしていた人が多い。今後、どの仕事に就くにしても、多少でもパソコンの操作は必要になるので、パソコンの知識を身につけてもらい、元の仕事に戻ったときにも活用してほしい」と語った。

今回の「東北UPプロジェクト」では、日本マイクロソフトが過去10年に渡り実施してきたICTを活用した就労支援プログラムの知見を活用したプロジェクトを東北三県で実施し、政府、自治体および民間による様々な雇用施策と連携して、被災者の職業の選択肢と就労機会の拡大を図るとともに、より安定した就労への移行や事業の安定化を支援する。そして、ITスキル講習会受講者のべ500人、就労率30%を目標に掲げている。

講習会では、被災者に対して、地元のNPO支援者が、ICTスキル講習と就労支援を組み合わせて提供することによって、被災者が仕事情報へアクセスする、あるいは、さまざまな仕事に必要な基本的なICTスキルを習得し、就労機会の拡大、および地域経済の活性化を図る。プロジェクトの実施期間は、2012年1月1日~2013年3月末までで、Windows 7、Office 2010およびOffice 365を主体としたICTスキルの向上を図る。

就労支援プロジェクトは有効性が実証

日本マイクロソフトは、東北UPプロジェクト以外にもさまざまな被災地支援を行っているが、なぜマイクロソフトが支援するのかについて、日本マイクロソフト 社長室 コーポレートコミュニケーション部の岡部氏は、「マイクロソフトはITの会社なので、ITを使って就労に役立ててもらう活動を10年以上行っている。これまで、女性や若者を対象にした支援プログラムを行っており、そうした経験を活かした被災者支援活動を何かできないか検討し実施してきた」と説明した。

東北UPプロジェクトにおいて日本マイクロソフトは、プロジェクトの主催、最新ソフトウェアおよびプロジェクトマネジメントスキルの提供を実施し、プロジェクトを共同で行う「育て上げ」ネットは、運営事務局や東北で支援を行うNPOとの連携窓口のほか、協力団体との調整を行うという。

「東北UPプロジェクト」の実施体制

ICTを活用した就労支援については、これまでに実施した個別プロジェクトに係る第三者評価調査によって、その有効性が実証されており、「若者UPプロジェクト」では、就労率が45.5%と目標値の30% を大きく上回り、プロジェクトの受講者の8割が「気持ちが前向きになる」などの肯定的な意欲の変化があったという。