米WebrootでPresident兼CEOを務めるDick Williams氏は、IT分野の投資家の間で非常に著名な人物である。過去には、米SpringSource(米VMware傘下)に買収された米Hyperic、米CAに買収された米Wily Technology、米Informixに買収された米Illustra Information Technologies、米Novellに買収された米Digital ResearchなどでCEOを務めた経験を持つ。

米Webroot、President兼CEOのDick Williams氏

いずれも高度な技術力を持ち、各分野で名を馳せた企業ばかり。例えば、Illustra Information Technologiesを買収したInformixは、後に米IBMに買収されており、そのプロダクトは現在「DB2」というブランド名で提供されている。また同社は「Postgres」というデータベースをオープンソースで公開しており、その派生バージョンは「PostgreSQL」として現在も広く利用されている。ソフトウェア関係者であればその技術力の高さはうかがい知れるはずだ。

こうした企業の技術力を収益に結び付けてきた人物がWilliams氏である。本誌はそのWilliams氏に組織を動かすためのポイントと、Webrootの製品戦略について話を聞いたので、その模様を簡単にお伝えしよう。

大切なのは「Think Small」

企業のリーダーに求められるもの。その内容はさまざまだが、おそらく共通するのは、ビジョンを提示し、それに向けて事業を推進していくことだろう。

どんなに優れたビジョンを掲げてもそれを具現化できなければ意味がないし、どんなに優れたマネージメント力があっても方向性が間違っていれば業績は悪化してしまう。創業からのCEOであれば勝手知ったる環境で、従業員の賛同も得られやすいが、途中から企業をあずかることになったCEOにとって、こららのバランスをとるのは難しい作業であるはずだ。

ではWilliams氏は、どのように舵を取ってきたのか。この点を問うと、氏は「経営に明確な答えはない」と前置きしながらも、「Think Small」というキーワードを使って、次のように説明した。

「CEOに就任するにあたっては、できるかぎり考えを小さく持って(Think Small)臨むことが大切だ。企業の力を把握せずに、理想だけを巡らせていても事業は決してうまく進まない。さまざまな従業員と話し、質問を投げかけ、自分の考えが正しいかどうかを確認しながらマインドセットを合わせていくことが求められる。実行に移す際、社員がどんなことを考えて行動するのかを頭に入れなければ、事はうまく運ばない」(Williams氏)

Williams氏は通常、こうした作業に6ヶ月近くを費やすという。この期間に、リーダーシップや才能を持った個人を発見する。その個を活かした戦略を練り、具体的なビジョンを作っていくという。

この段階で大切なのは「恐れないこと」(Williams氏)。従業員を恐れず、オープンな気持ちで対話することが大切なのだという。

変革期には「一気に進化させる」

以上のようなプロセスにより企業の基盤を作った後、いよいよ次のステップとして、新CEOに求められるであろう「変革」に着手することになる。Williams氏は、ここでのポイントについて「少しずつ変えるのではなく、一気に進化させることが必要」と語る。

「変革期には、既存の製品の改善版ではなく、マーケットにこれまでなかったものを投入するべき。投資家にも、消費者にも、"脅威"を感じさせることが重要だ。それによりマーケットを"発火"させることができる。この効果については、Steve Jobs氏の功績を見れば、おわかりいただけるだろう」(Williams氏)

Williams氏がWebrootのCEOに就任してすでに2年半。現在はこの変革期にあるようだ。

では、同社がどのような技術によりマーケットを"発火"させようとしているのか。続いては、その内容を簡単に紹介しよう。