高輝度光科学研究センター(JASRI)は8月23日、大型放射光施設「SPring-8」の高輝度高エネルギー放射光X線を用いた測定と計算機シミュレーションにより、ガラスの形成のしやすさと原子配列の関係を明らかにしたと発表した。

今回の発見はJASRI小原真司主幹研究員らを中心とした、フィンランド・タンペレ工科大学、山形大学、日本原子力研究開発機構、米MDI、英アベリストウィス大学、米アルゴンヌ国立研究所との国際共同研究チームによる成果。米国科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」(米国科学アカデミー紀要PNAS)のオンライン版に掲載された。

ガラスは我々の生活になくてはならない、あらゆるところで使われているもの。しかし、ガラスが規則的な結晶構造を取らないにも関わらず、「なぜガラスになるのか」という疑問はまだ解明されていない。今回の成果は、その謎に迫る重要な手がかりとなったという。

研究チームは、今回の実験でまず融体を容器なしで保持する「無容器法」(画像1)を用いて、頑火輝石(がんかきせき、MgSiO3(=MgO-SiO2)、SiO2の含有率50モル%)および苦土かんらん石(くどかんらんせき、Mg2SiO4(=2MgO-SiO2)、SiO2の含有率33.3モル%)の高純度ガラスビーズをそれぞれ合成。2つの鉱物は地球上でありふれており、ガラスの主成分であるシリカ(SiO2)成分を含んだ鉱物だ(頑火輝石の方がガラスを形成しやすい)。

画像1。無容器法を用いたガラスビーズ合成装置の模式図。試料は円錐ノズルから吹き出るガスにより浮遊される仕組みで、CO2レーザーで過熱融解される。写真は2000℃で浮遊している酸化物融体(ガラスビーズの融体)

ガラスになりやすい頑火輝石と、ガラスになりにくい苦土かんらん石のガラス状態の構造を調べるために利用されたのが、SPring-8の高エネルギーX線回折ビームライン「BL04B2」だ。BL04B2で解析実験を行って中性子解析と構造シミュレーションを併用し、ガラスの原子配列の3次元構造を構築した(画像2)。

画像2。左が頑火輝石(MgSiO3)ガラスで、左が苦土かんらん石(Mg2SiO4)ガラスの原子配列

これまで、両ガラスともにケイ素原子(Si)の周囲に酸素原子(O)が4つ配置し、SiO4四面体が形成されていることはよく知られていたが、マグネシウム原子(Mg)の周囲にいくつのO原子が配置しているのかはよくわかっておらず、今回の研究でそれが判明。両ガラスとも、MgO4やMgO5が多く存在していることが明らかとなった。

これら両組成の結晶相では、ガラス相ではわずかだったMgO6という正八面体が多く存在していることも確認。つまり、ガラスは結晶相を単に乱した構造ではないことがわかったのである。

続いて、ガラスがSiO4、MgO4、MgO5のO原子を共有してつながっている点を利用し、そのつながり方を評価する指標として環状(リング)構造に注目してその大きさの分布を調査。例えば、MgO成分を含まないことからガラスになりやすいシリカ(SiO2)ガラスでは、SiO4四面体が6個つながっている6員環が最も多く含まれ、これを中心に3員環から12員環まで広い分布を持っている。

それに対して、SiO2ガラスよりもガラスになりにくいMgSiO3ガラスでは、SiO4四面体とMgO多面体が4~5個つながってできる4~5員環が多く、その分布も2~7員環までと狭くなることが判明。さらにガラスになりにくいMg2SiO4ガラスでは3員環が支配的になり、その分布も2~5員環とより狭くなることがわかったのである(画像3)。これにより、ガラスになりやすい物質ほどその環状構造の大きさの分布が広く、より多彩なサイズの環状構造を持っていることがわかったというわけだ。

画像3。ガラス中に存在する環状構造の分布。シリカ(SiO2)ガラスは6員環が最も多い。それに対し、頑火輝石(MgSiO3)ガラスは4員環が、苦土かんらん石に至っては3員環が最も多く、なりやすさと環状構造の大きさは比例しているのがわかる

一般に結晶中にはこのような構造・形態の多様性は見られず、この環状構造のサイズ分布、すなわち構造多様性の存在こそが、ガラスがガラスである所以(その組成の結晶と異なる特徴)であり、ガラスの形成のしやすさ(の違い)を構造的に説明するものであると結論づけられたのである。

今回の研究で、従来の「ガラスは結晶構造を単に崩したもの」と考えられがちだった構造的特徴を明確にでき、またガラスの形成のしやすさと構造の関係を明らかにできたことから、今後はこうしたガラスの構造多様性の研究・分類を通してガラスの物性理解が進み、さらに構造という基礎データに基づいた材料設計・開発へと展開することが予想されるという。さらに、無容器法はガラスになりにくい物質をガラスにすることができるため、無容器法により新たな機能性ガラス、例えば携帯電話カメラ用高屈折率ボールレンズの創製などへの応用も期待されている。