国際レスキューシステム研究機構(IRS)は4月6日、千葉工業大学芝園キャンパスにおいて記者会見を開催し、原子力発電所の事故に対応させたレスキューロボットを公開した。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトで開発した「Quince(クインス)」をベースに、改良したもの。今後、現場で活動できるように、関係機関に働きかけていくという。
東日本大震災の発生から、まもなく1カ月になろうとしている。被災地ではまだ救援活動が続いているところだが、これからの復興に向け、大きな障害となっているのが東京電力(東電)の福島第一原子力発電所で発生した事故だ。今後、冷却システムを復旧させ、安定した状態まで持って行かないといけないが、高い放射線量もあって作業は難航している。
人間にとって危険な環境下でも、ロボットなら作業ができる。日本は「ロボット先進国」と言われ、レスキューロボットに関する研究開発も以前から盛んだったが、しかし実際に原発問題で声がかかったのは米国やフランスのロボットだった(ただし実際に現地で使用されたという話は2011年4月7日時点でまだ出ていない)。
4月4日になって、日本ロボット学会などロボット技術関連の4学術団体は、共同で「東日本大震災およびそれに伴う福島原子力災害に対する日本のロボット技術の適用に関する声明」(リンク先はPDF)と題した声明文を発表。今回の会見はこれを受けて開催されたものだが、記者からの質問は「今まで何をしていたのか」「どうして活用されていないのか」という点に集中した。
会見したのは、千葉工業大学未来ロボット技術研究センターの小柳栄次副所長。いままでロボットの出番がなかったのは被災地の混乱もあるだろうが、震災直後の3月13日にはロボット4台を仙台まで持ち込んだものの、使う場がないまま撤収。16日には鹿島コンビナートから打診があって対応を協議したものの、能力的に解決できない問題があってここでも使われることがなかったという。Quinceの改造に着手したのは、その後の18日から。
Quinceは重量27kg程度の小型のクローラ型ロボット。大きな瓦礫を撤去するような能力はないため、主な用途は放射線などの環境モニタリングを想定、今回の原発事故への対応のため、遠方からの遠隔操作の機能を追加し、放射線がロボットに与える影響についての検討も行った。放射線については「全く知見がなかった」(小柳副所長)ため、ロボットへの影響については、人工衛星を開発している研究者などからも意見を集めたという。
2台のQuinceを使った屋内探査。1台を中継器にして、もう1台を建屋内に向かわせる。2台のロボット間は200mの光ファイバで接続する |
実際のロボット。無線は見通しが良い場所に限られるが、2km離れた場所からの遠隔操作が可能だ |
こちらは固定の中継器を使ったパターン。建屋内に向かうロボットとはPoE(Power over Ethernet)ケーブルで接続する |
通常だとバッテリは2時間しか持たないが、PoEケーブルにより25Wの電力を供給可能で、数日間の定点観測に使えるという |
6自由度のアームを備えたQuinceも。マスタースレーブ方式で操作し、ドアを開けるようなことも可能だという |
このQuinceでは、搭載したレーザーレンジファインダを使って3次元形状を計測。室内の破損状況が確認できる |
IRSとして提供できるのは、Quinceが6台、Kenafが12台、そして別の小型ロボットが2台で、合計20台。オペレータは東電側で用意してもらうことが前提で、「訓練すれば2~3日で使えるようになる。訓練には全面的に協力する」(同)という。
ただし、これが実際に現地で使われるかどうかは、現時点では不透明。東電や政府などからの依頼はまだなく、事実上、「使えますよ」と手を挙げただけに過ぎない。東電との直接のコンタクトもほとんどないようで、現地の詳しい状況もわからない状態。ここで改造したものが本当に現地にフィットするのかどうかも不明だ。現場と研究者を結びつけるコーディネート能力が不可欠になるが、それを誰が、どの組織が担うのか。そういった体制作りも急務だろう。