米Google CEOのEric Schmidt氏は2月15日、スペイン・バルセロナの「Mobile World Congress 2011」で基調講演を行った。昨年はQAセッション会場にて聴衆(主としてオペレータ)が不信感や反感を露にして、気まずい雰囲気の中で講演を終えたが、今年は「Android」ブームのためか、あるいは春にCEO退任が決まっているためか、QAセッションで白熱する場面はなかった。

Eric Shmidt氏

Schmidt氏は昨年、コンピューティング、コネクティビティ、クラウドの3つの土台の進化に触れ、「Mobile First(まずモバイル)」と述べた。今年も同じような内容となった。

最初にSchmidt氏は、Androidに関するいくつかの数値を出した。

  • 毎日30万台のAndroidスマートフォンがアクティベートされている
  • 27社のOEMが製造
  • 機種は170以上
  • 69カ国169キャリアで利用できる
  • 「Android Market」のアプリ数は15万以上、9カ月で3倍増えた

「(Androidは)最も急ピッチで成長しているモバイルプラットフォームといえるだろう」とSchmidt氏は控えめに述べた。「重要なのは、この成長は携帯電話機やプラットフォームそのものではなく、エコシステムが大事だということ」と続ける。

若い開発者は、まずはモバイル向けに開発するとSchmidt氏。そこにスケールがあることを理解しているからだ。実際、2010年第4四半期、スマートフォンの出荷台数がPCを上回るというシンボリックな現象が起こった。Schmidt氏は、「2010年にわたしは、2年後にスマートフォンがPCの販売台数に並ぶと予想したが、いつものようにわたしの予想は外れた」と述べ、会場を笑わせた。

スマートフォンブームの背景には、土台が揃ったことがある。ピクセル、メモリ、周波数の3つが飛躍的に成長し、スマートフォンは1969年のコンピュータの2万倍のキャパシティがあると言う。ネットワーク側も進化している。無線データ通信のニーズを満たすべく、オペレータはHSPA、LTEと投資を続けている。「新しいタイプのアプリケーションが生まれるチャンスだ」とSchmidt氏。

単なるコミュニケーションデバイスだった携帯電話は、データ閲覧やコンテンツブラウジングのプラットフォームとなった。次は、ユーザーを支援するようなものになるとSchmidt氏は見る。だが、「新しいアイデアではない。Bill Gatesが1990年に"Information at your fingertips"と言っている」とも言う。たとえば、ユニファイドコミュニケーション技術により、スマートフォンで電子書籍を読み、いったん中断した後、続きをPCで読むことが可能となる。翻訳サービスにより、ほぼ瞬時に母語が違う人と話す、などクラウドによりさまざまなことが可能となる。

そしてSchmidt氏は、Googleが開発した「Android 3.0」タブレット向けのアプリケーション「Movie Stand」を発表した。

ステージ上のデモでは、「Nexus S」で撮影した写真や動画をアップロード、「Motorola Zoom」で3枚の写真と動画を組み合わせ、エフェクトを加えたり音楽を加えたりしてショートムービーを作って見せた。作成したムービーをYouTubeで共有することなども可能という。

「Movie Studio」

タッチ操作で素材を動かして動画を作成できる

エフェクトも用意されている

最後に音楽を入れて出来上がり。メール(Gmail)したりYouTubeにアップロードできる

では、高い処理能力、スマートフォン、クラウドなどのトレンドは何を意味するのか? 「Googleは、崩壊(distruption)を意味すると理解している」とSchmidt氏。スケールを崩壊し、ビジネスに影響を与える。「多くの点から見て、長い間続いてきたパターンを変えてしまうものだ」とSchmidt氏。

そして、「インターネットは"希少性の経済"を普遍性の経済に変える」としながら、一方でプライバシーの懸念があることも認めた。「健全な議論が進んでいると思う。Googleはちゃんと耳を傾けている」とSchmidt氏は言う。

最後に、次の10年間について、「わたしはコンピュータ学者だ。楽観主義を信じる」と述べた。気候変動などの世界が直面する問題は、コンピュータ科学が大きな助けになるし、政治に透明性が出ることで政治もよくなる、とチュニジアやエジプトの政権崩壊を示唆した。

講演の後のQAセッションでは、以下のようなトピックが出た。

  • 「Chrome OS」はAndroidとは無関係でネットブックとPC向け。今年の春にメーカーが搭載機を出す。
  • Androidについては、「スマートフォン向けの「Gingerbread」とタブレット向け「Honeycomb」がある。頭文字はGとHで、次はIで始まるデザートで、GとHを合わせるものとなる」「Androidはざっと6カ月サイクルでリリースしている」
  • NokiaとMicrosoftの提携については、GoogleはNokiaと話を進めようとしたことを明かした。「Androidを選んでくれることを望んでいた。今後もそのオファーはオープンだ」
  • Facebookはライバルかという質問に対しては、自社の広告収入に影響はないとのこと。「Googleの主要なライバルはMicrosoftとBingだ」と述べた。

Schmidt氏はまた、基調講演中、Googleの取り組みについてひと通り紹介した。ポイントは以下になる。

  • 検索ではスピードを重視している。「Google Instant」では2 - 5秒節約できる
  • パーソナライズ。ユーザーの許可が条件。次のステップは「Autonomous Search(自律的な検索)」 - ユーザーがGoogle検索をすることなく情報を得られるもので、バルセロナを歩いていると、観光スポットでその場所に関する情報を受け取る、という例を紹介した。
  • モバイル検索
  • ブラウザ「Chrome」- 現在アクティブユーザーは1億2,000万人で6倍高速。プラットフォームでもあり、開発者はクラウドベースのアプリを開発でき、開発者が利益を得るコンポーネントもある
  • YouTube -毎分35時間の動画がアップロードされており、PVは1日20億。モバイルでのPVは1年で倍増し、1日1億6,000万。2010年の売り上げは倍増した
  • 広告は、デスクトップPCからモバイルに拡大しており、将来のモバイル向けソフトウェアは広告コンポーネントを持つだろう