GARABATO代表取締役 北岡弘至氏

東京 池袋のサンシャインシティコンベンションセンターTOKYOにて開催された、印刷出版業界向けのイベント「PAGE 2011」にて、フォトレタッチャー 北岡弘至氏(GARABATO 代表取締役)によるセミナー「イメージをかたちにする! Photoshopでのレタッチワーク」が行われた。

北岡氏はこれまでに、NTTドコモやソニー、ANA、コカ・コーラ、久光製薬、キリンビバレッジなど、様々な企業の広告宣伝用ビジュアルを制作してきたフォトレタッチ界の第一人者。セミナーでは北岡氏が手がけた作品の作り方や、フォトレタッチャーの仕事内容などが語られた。

プラモデルをかっこよく見せるフォトレタッチ術

北岡氏は『機動戦士ガンダム』のプラモデル写真を使ったフォトレタッチの作品を会場のスクリーンに映し出した。この作品は「ガンダムのプラモデルをとことんかっこよく見せる」というコンセプトで、カメラマンとタッグを組んで制作したもの。作品は機動戦士ガンダムに登場するモビルスーツ「ガンダム」や「ゲルググ」、「ザク」など、5体を使った5作品。

これらの作品を作るために用意した素材は、主役となるガンプラの写真の他に、素材として使う花や絵の具、割れたガラスなどの写真。まず最初に行なった作業は、ガンプラの写真を整える作業。プラモデルのバリやパーツのつなぎ目を消したり、「フィルター>シャープ>アンシャープマスク」で画像を滑らかにした。ちなみに、「アンシャープマスク」のパラメーターは、「量:91パーセント、半径:250」を適用。

写真の粒子サイズを整えてフォトレタッチの完成度を高める

北岡氏が作品を作る際に特に気をつけているのは、写真の粒子。別々に撮影した素材の写真は粒子の大きさや形がまちまちで、このまま合成すると、わざとらしい合成写真になってしまう。そのため、作品の完成度を高めるためには、各素材の粒子を揃える必要があると言う。北岡氏が粒子のサイズや形を調べるときは、素材の写真を1000パーセントまで拡大してチェックするという。拡大して粒子の形状を調べ、その形に近い粒子を「Photoshop」で作るわけだ。

粒子の作り方は、「ノイズ」や「ぼかし」、「シャープ」などのフィルターを組み合わせるだけ。北岡氏は、「Photoshopで作り出せるノイズのバリエーションは無限。いくつかのフィルターを掛け合わせると、いろいろな形の粒子を作り出せます」と語った。

描画モードを駆使した素材を活かす合成テクニック

ガンプラの写真が整ったら、その他の素材を合成していく。ただ単にレイヤーとして重ねるだけでなく、素材ごとに異なった「描画モード」で合成するのがポイント。例えば割れたガラスの素材の合成はハイライトだけを際立たせるために「ビビッドライト」、銀紙の素材は明るく重ねるために「スクリーン」で合成されていた。素材に応じて最適な描画モードを選ぶのも、フォトレタッチャーには必要な技術なのだ。

描画モードの応用例として、「フィルター>表現手法>エンボス」を適用した画像を合成する方法も紹介された。エンボスをかけた画像はコントラストが強くなるので、合成すると立体感を演出できる。ガンプラだけでなく、素材として撮影された「飛び散った絵の具」もこの手法で合成された。

ジェット噴射やライトはエアブラシで描く

北岡氏は「Photoshopのフィルターに頼らず、手を動かして描く部分もある」と、手描きの必要性を語る。北岡氏が自分で描いたのは、エンジンのジェット噴射やモノアイ(モビルスーツの眼に当たる部分)など。ジェット噴射の部分は「追い焼き」ではなく、「ブラシ」を使って描いていた。そして、描いたジェット噴射にはフィルターの「変形>ガラス」でゆらぎを演出し、作品を完成させていく。本来は宇宙空間なのでゆらぎは起こらないが、フォトレタッチで重要なのは見た目。現実とは異なるエフェクトも効果的なのだ。

よりリアルに見せるためのデザインを考える

次に紹介されたのは、クレジットカードの広告用に作られた作品。事前にクライアントからクレジットカードの現物が届けられたが、北岡氏は「素材としては使えなかった」と語る。理由はカードが小さいので、きれいに撮影してもモアレが目立ってしまうからだ。そのため、Photoshopでカードの素材を作るという作業が必要になった。

実在するものを作るときに北岡氏が注意しているのは、「いかに実物らしく見せるか」ということ。制作時は現物を見ながら作業するのだが、「まったく同じデザインに仕上げるよりも、誇張したほうがリアルに見える場合もある」と北岡氏は言う。このときの仕事では、クレジットカードの表面には光る粒子(ラメ)を誇張して表現したとのこと。

ただの写真に見えるが、実は北岡氏が「Photoshop」で作った画像と本物のクレジットカードが合成してある

セミナーの最後には、これまで北岡氏が手がけた数々の仕事が、制作エピソードと共に紹介された。興味深かったのは、工業地帯をバックに撮影された人物の写真。この写真の背景は川崎のとある工業地帯の写真だったが、北岡氏はクライアントから「場所を特定されては困る」と伝えられていた。そのため、フォトレタッチで別の場所にあるビルや駐車場などを合成させ、まったく別の背景に加工したという。

もうひとつの作例は、ある画家が描いた油絵の写真をレタッチして欲しいという案件。締め切りまで時間がなく、画家が油絵を描き直すのは不可能だったため、Photoshopのチカラを使って描き直してしまった。これこそフォトレタッチャーにしかできない仕事だ。

「僕は特別なツールを使っていない。自分がこうしたいというイメージを考え、簡単なテクニックを組み合わせているだけ。みなさんもやってみてください」と、北岡氏は来場者にフォトレタッチの手軽さと楽しさを伝えた。