自然科学研究機構分子科学研究所(IMS)および早稲田大学、北海道大学らによる研究グループは、100nmのナノの世界でのみ観測される新現象を発見したことを発表した。アメリカ化学会が発行するナノサイエンスの専門速報誌「Nano Letters」のオンライン版に掲載された。

不透明な金属板に孔をあけて光をあてると、光は孔から通過して反対側に出てくるが、孔を不透明な板で塞げば、光をあてても出て来なくなるのが常識である。しかしナノの世界では、この常識があてはまらないことが、今回、研究グループにより判明した。

上が金属板に微細な孔を開け、光を通すと僅かに光が通る様子。下が孔を金属の円盤で塞ぐと、光は通るのか疑問を呈している様子

これは貴金属のナノ微粒子の特性を、近接場光学顕微鏡で研究しているときに見いだされたもので、金属の板に開ける光を通す孔をナノメートルサイズまで小さくすると、通過する光は弱くなっていくが、実験では、近接場光学顕微鏡で用いられている、金の薄膜にあけられた近接場プローブと呼ばれる微細な孔(直径50~100nm程度)を用い、この孔に光をあてると、わずかな光が孔を通過してくることが確認された。

実際の測定の配置図。金のナノサイズの円盤は、光を通す孔よりも大きい

この孔のごく近くに、金でできたナノサイズの円盤(厚さ35nm、直径100~200nm程度)を持ってきて、光の通り道を塞ぐ配置にすると、孔の直径よりも円盤の直径が大きく、また円盤は孔のごく近く(30nm未満)なので、ここを通る光は、常識的にはさらに弱くなり、ほとんどゼロになるはずである。ところが実際にこの配置で孔を通ってくる光の強さを測ったところ、円盤がない時に比べて、円盤で孔を塞いだ時の方が、数倍強くなる場合がある、孔を塞いだ方が、光がずっとよく通ることがあることが判明した。

金属膜に開けた孔からは、光はほとんど通過しないが、孔の周辺に「留まっている」強い光のあることが、理論的には知られていた。ナノサイズの金属円盤を孔に近づけると、この留まっている光を拾い出して、空間に放出する働きを持つことが、解析の結果判明。これにより、孔を金属円盤で塞ぐと、かえって通過する光が強くなったと考えらるという。

ただし、このナノ金属円盤の働きは、どのような場合でも現れるわけではなく、円盤のサイズによって決まった波長の光である必要があり、それよりも短い波長の光では、通過してくる光の強さは、円盤で塞ぐと弱くなるということが実験で確認されたという。

通過する光の強さの、光の波長による変化。円盤を近づけない時の光の強さが点線(100%ライン)。波長850nm付近の光は、円盤を近づける(孔を塞ぐ)ことで3倍近く透過していることが分かる

また、円盤と孔の間にわずかな隙間があることが重要で、隙間なく塞いでしまうと、通過する光は弱くなるという。

なお、電波と光は、波長が異なるだけで同じものであるため、同様な現象は携帯電話などの電波でも起こると考えられると研究グループでは指摘しており、この場合は、孔や円盤はナノサイズではなく、ミリメートル~センチメートル程度になると予想している。

また、研究グループは、この現象自体に、実社会で役に立つ応用があるかどうかは分からないとしているが、一方で光通信デバイスなどで発展があるかも知れないとしている。ただし、この現象は、貴金属のナノ円盤が、「留まっている光」と空間に放出される光の間の、相互変換に有効に働くという、基礎的な性質を明らかにしたことが重要であり、今後、貴金属ナノ物質のこの特性が、例えば光のエネルギーを有効に電気エネルギーや化学エネルギーに変換するための基礎的な性質として活用されていく可能性があるとしている。