産業技術総合研究所(産総研)および米国Colorado School of Minesらによる研究グループは、さまざまな炭化水素燃料を直接改質して利用できる触媒層を付加したマイクロ固体酸化物形燃料電池(マイクロSOFC)を開発したことを発表した。英国の科学誌「Energy & Environmental Science」に同成果の一部が掲載されたほか、詳細は2011年1月23~28日に米国フロリダ州で開催される「The 35th International Conference and Exposition on Advanced Ceramics and Composites」にて発表される予定。

燃料電池は使用する材料によりさまざまな方式が開発されてきたが、その中で最も高いエネルギー変換効率を示す1つがSOFCだが、すべてがセラミックス材料からなる燃料電池で、動作温度が700~1000℃と高温であることから、大型発電設備への応用などに限られており、家庭用分散電源、移動電子機器用電源、自動車の補助電源などニーズの高い領域での新規応用展開が求められていた。

こうした応用展開を進める中で重要であったのが、急速起動運転が可能なマイクロSOFCのモジュール化技術や炭化水素燃料を用いた低温運転を可能とする多燃料利用技術だが、これまで600℃以下では従来型のニッケル系燃料極では燃料の改質が十分に進まないため直接利用発電が困難であった。特に装置の小型化には、500~600℃の低温で電極での燃料直接改質を実現し、同時に発電が可能な高性能SOFC技術の実現が望まれていた。

産総研はこれまでにも小型電源へのSOFCの応用を目指した研究開発を進めてきており、650℃以下の動作温度で高出力で熱衝撃にも強いSOFCを実用化する研究を行い、セリア系およびジルコニア系材料を用いて急速起動運転が可能なマイクロSOFCのバンドル・スタック化技術の開発に成功したほか、SOFCは運転温度を下げると急激に性能が下がるため、水素燃料を用い600℃付近の低温で1.0W/cm2の高出力発電を可能とする新たな電極技術などを開発してきた。

こうした中、SOFCはシステムの起動時間を短縮し、起動エネルギーを低減するためにさらなる運転温度の低減が求められているほか、SOFCの応用展開を進めるために、エネルギー密度の高い炭化水素燃料を利用したコンパクトなシステムの実現が求められているが、メタンなどの炭化水素燃料を用いた場合、特に600℃以下の改質反応が起こり難い低温域では、電極活性の低下により、水素燃料の場合と異なり発電性能が低下することが問題となっており、その解決が求められていた。

このような背景の中、産総研では、これまで開発してきたチューブ型マイクロSOFC技術を発展させ、新たに炭化水素燃料を直接利用できるように、燃料改質機能を持つ触媒層を付与した直接電極改質技術を開発。従来の平板セルでは燃料極表面には集電を行うためのインターコネクト材料が接続されているため、燃料改質の機能層を直接セル上に設けることは困難であったことから、燃料改質器をSOFCモジュール近傍に設置したシステム構成を採用した。

図1 セル概要

一方、チューブ型マイクロSOFCでは燃料極チューブ端表面から集電しているため、燃料極表面にさまざまな構成の機能層を付与できる。今回作製したチューブ型マイクロSOFCでは、電解質材料としてセリア系セラミックス、燃料側電極材料にニッケル-セリア系セラミックス、空気側電極材料にはランタンコバルト-セリア系セラミックスを採用し、ナノオーダーのセリア改質触媒層を燃料極の内壁表面上に付与し、1.8mm径のチューブ型マイクロSOFCを作製したという。

図2 ナノメートルサイズのセリア触媒層を付与したチューブ型マイクロSOFCの断面と触媒層表面

機能性触媒層としてセリア触媒層を付与したマイクロSOFCと付与しないマイクロSOFCについて450℃付近の低温でメタンと水蒸気の混合ガスを用いて試験をしたところ、セリア触媒層を付与したマイクロSOFCはセリア触媒層がないマイクロSOFCと比較して飛躍的な発電性能の向上が確認できたという。

図3 450℃付近におけるチューブ型マイクロSOFCの触媒層の有無による性能比較

セリア触媒層を付与しない場合、メタン系燃料の直接利用において、450℃付近では、起電力は0.6V程度と小さく、数mW/cm2程度の出力であったが、セリア触媒層を利用することでその約30倍の実用レベルである0.1W/cm2の出力が確認できた。

さらに、500℃、550℃付近においては、それぞれ0.4W/cm2および0.45W/cm2の出力密度が得られており、現在は、低温域においても、メタンを含むさまざまな炭化水素燃料にて、水素燃料と同等以上の出力性能への向上を目指し、種々の触媒層を付与した電極技術の研究開発を進めているという。

図4 触媒層を付与したチューブ型マイクロSOFCのメタン-水蒸気の直接利用による発電性能の運転温度依存性(a)550℃付近、(b)500℃付近、(c)450℃付近

今回開発したマイクロSOFCでは、機能性触媒層を付与するプロセスはスラリコーティング法を用いており、同プロセスを利用することで、さまざまな炭化水素燃料に適した触媒層の付与が可能となるほか、触媒層の焼成が空気極の焼成と同時に行えることから、コスト面での優位性も得られる。そのため、さまざまな炭化水素燃料の直接低温利用が可能でコンパクトなSOFCシステムの実現が加速するものと考えられるとしており、研究グループでは、今後、これまで開発してきたSOFCモジュール化技術を適用することで、起動エネルギーを低減し、急速起動性を高めた小型SOFCシステムの開発を進め、多燃料利用による次世代自動車用や移動体向けの小型電源として、普及促進を進めたいとしている。