アドビ システムズのビデオ制作用アプリケーション「Adobe Premiere Pro CS5」の新機能を数回に渡り徹底紹介していく本レビュー。今回は、Ultraキーについて、チャートを使った検証を紹介していく。

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なお、これまでに紹介してきた「Adobe Premiere Pro CS5」のレビューは以下の通り。

・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.1
・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.2
・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.3
・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.4

スピルサプレッサーで取り去る色被り

図13

Ultraキーはなぜこんなにきれいに色を抜くことができるのだろうか。図13はUltraキーの調整項目であるが、この中にきれいな合成を行うためのキーポイントが見え隠れしている。それはスピルサプレッサーと呼ばれる機能だ。指定したキーカラーに近い色の部分から、キーカラーの色成分だけを抜いてしまう性質を持っている。

ブルーバックやグリーンバックの撮影では、背景マットの色が付いた光が反射して被写体の輪郭付近にマットの色を付けてしまうことがある。これは色被りと呼ばれている。この色被りは髪の毛や頬に出ることが多く、これを無理やり透明にしてしまうと、頬が痩せ、頭の一部が欠けてしまう結果になる。そこでその部分を透明にするのではなく、マットに使われている青み成分や緑の成分だけを抜いて目立たなくしてしまうのである。肌色などでも青み成分は含まれているため、スピルサプレッサーを使うことで、本来の被写体の色が若干変わってしまうこともあるが、感覚的にはそれほど違和感はなく、自然に見えるのである。とくに今回実験に用いた黒や透明という、彩度がほとんどない被写体については、スピルサプレッサーによる色抜きでボロが出にくいことから、とても効果的な手法となる。「CS4」以前の「Premiere Pro」には、この色被り補正が搭載されていなかったのである。

色空間の「抜型」にも秘密があった

とはいえAvidのノンリニア編集ソフトにも、スピルサプレッサーは搭載されている。プロ用として長く使われてきたAvidのソフトは、この辺りの機能に手抜かりはないのだ。しかし今回のUltraキーの抜け具合は、明らかにAvidのクロマキー機能をも超えている。ということは、まだ他にも「抜ける」要因があることになる。それはなにか? そこで抜きの秘密を探るべく、図b-1、b-2のような、オリジナルの色チャートを作成して実験してみた。

図b-1

図b-2

平行六面体の形状を成すRGB色空間

ところでその前に、色空間というものについて理解しておかなくてはならないだろう。自然界の被写体はさまざまな色や明るさを持っているが、それらは全て、赤・緑・青(RGB)の3つの色を適度な割合で重ね合わせることで表現できる。コンピュータ上ではRGBの各成分を、一般的に256階調(8ビット)で表現するため、自然界に存在する色は、例えば(RGB)=(145,78,186)のように表示され、その組み合わせは、256×256×256でおよそ1,700万色となる。ビデオカメラは被写体の色をRGBの各成分に分解して撮影し、テレビモニタはRGBの各ドットを適度に光らせることで、あらゆる色を再現している。

日常生活で我々は、縦、横、奥行きがあるものは箱や部屋のような立体を成し、その中身を空間と呼ぶことを知っているが、色成分も、この縦、横、奥行きに相当するR、G、Bという3つの数値を持っていることから、これをRGB色空間と呼んでいる。ところがカメラで撮影された映像は、その後マトリックス回路を通って、今度は白黒成分(Y)とふたつの色味成分(Pb、Pr)に変換されて、テープやその他のメディアに記録される。ケーブルや電波を通して伝送されるのもY,Pb,Prの3成分となり、これを色差コンポーネント成分(または信号)と呼んでいる。このY,Pb,Prも3つの数値で成り立っているので、色空間を形成するのだが、RGBによる色空間とは形が大きく異なってくる。

そこで通常はY,Pb,Prによって形成される色空間をサイコロのような立方体と考え、その中にRGB色空間を当て嵌めて考える。するとRGB色空間は、3種類の平行四辺形によって囲まれた平行六面体となり、Y,Pb,Prで形成される立方体の中に、斜めにすっぽりと納まる格好になるのである。

色立体断面チャートの見方と意味

ややこしい話になってしまったが、このサイコロのようなY,Pb,Prの色空間を縦にスパッと切ったときに現れるRGB色空間の断面が、図b-1のチャートであり、カメラが実際に映し出す青い色(下から20%くらいの位置)で横方向にスパッと切ったときのRGB色空間の断面が図b-2になるというわけである。

このチャートにクロマキーなどの合成機能を適用すると、指定した色付近が透明になる。このとき透明になった部分がどのような形をしているかはキー合成のアルゴリズムによって決まり、その形しだいできれいに抜けるかどうかが決まるのである。