アドビ システムズのビデオ制作用アプリケーション「Adobe Premiere Pro CS5」の新機能を数回に渡り徹底紹介していく本レビュー。今回は、強化されたプロジェクトの互換性などについて紹介していく。

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なお、これまでに紹介してきた「Adobe Premiere Pro CS5」のレビューは以下の通り。

・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.1
・「Adobe Premiere Pro CS5」新機能徹底レビューvol.2

プロジェクトの互換性が向上

今回のバージョンアップにより、ほかのノンリニア編集ソフトとの互換性が高まったことについて紹介していきたい。業務用のノンリニア編集システムの中には、Autodeskの「Inferno」や「Smoke」、Quantelの製品など、専用のハードウェアを伴い数百万円、数千万円という高価なものがある一方で、ソフトウェアのみでも動作できる安価なものもある。その代表格がAvidの「Media Composer」、Appleの「Final Cut Pro」、Adobeの「Premiere Pro」だ。これらはノンリニア編集ソフトの御三家とも言うべき存在だが、残念なことにそれぞれのソフトにはプロジェクトデータについての互換性がなく、一度編集作業を始めてしまったが最後、同じ編集ソフト間でしかデータのやり取り、共同作業などができない不便さがあった。

ところがCS5ではPremiere Proを中核にして、Media Composerに対してはAAFファイルで、Final Cut ProについてはXMLファイルを使うことで、それぞれの編集ソフトとプロジェクトデータの共有が図れるようになった。わかり易く言えば、Premiere Proで編集中の作品を、途中からMedia Composrに切り替えて仕上げをすることもできるし、Final Cut Proでオフライン編集したものを、Premiere Proで本格的に編集することもできるというわけだ。残念ながらMedia ComposrとFinal Cut Proの間では直接プロジェクトデータの受け渡しはできないが、Premiere Proを間に挟んでデータ変換すれば、相互のデータ移動も不可能ではないということになる。Adobeによれば、メーカーの独自性が高い高度なエフェクトやスーパーについては互換性が保てない場合があるということだが、一般的にオフライン編集はカット編集のみを行うというのが常識なので、エフェクトの互換性まで保証されなくても、実使用上は問題ないと思われる。

最近はFinal Cut Proでオフライン編集をするディレクターが増えてきたために、編集途中のHDDをポスプロに持ち込み、そのままオンライン編集することを要求されるケースが多くなってきているという。しかしながら現場はまだまだテープによる完パケが主流であり、VTRとの親和性を考えると、Avidのシステムは手放せない事情がある。そんな時、プロジェクトデータを変換できるCS5は、コンバータとして使うだけでも十分な価値があるように思える。

メディアエンコーダの仕様変更

もうひとつ嬉しいのは、メディアファイルを書き出すときに、ダイレクト書き出しが選択できるようになった点だ。CS4ではタイムライン上のデータを映像はもちろん、オーディオのみや静止画であっても、書き出し作業を始めると、まずは「書き出し設定」ウィンドウが開き、そこでファイル名などを決めた後はOKボタンを押すしかなく、すると必ず関連ソフトであるAdobe Media Encoderが時間をかけて起動してしまうため、静止画1枚を書き出す際にも無駄が多かった。CS5では「書き出し設定」に「キュー」と「書き出し」というふたつのボタンができ、「キュー」を選ばずに「書き出し」をクリックすれば、Adobe Media Encoderを通さずに、ダイレクトに出力できるのである。またソースモニタやレコードモニタの右下に、カメラの絵の「フレーム書き出しボタン」が密かに追加されており、ソース映像やタイムラインの映像から、静止画なら簡単に切り出せるようになっている。

HDVフォーマットのシーン検出に対応

ファイルベースフォーマットへの機能ばかりが表に出てしまい、まだまだ多いはずのテープユーザーが見捨てられている感があるように見えるかもしれないが、じつはHDVテープからキャプチャする際に、カメラのトリガーボタンを押した位置を自動的に見つけ、クリップをカットごとに分割して取り込むことができるようになっている。キャプチャ作業はプロの現場でも採算の合わない非生産的な作業で、アルバイトがあてがわれることが多いのだが、その作業からある程度開放されるというのはうれしいことだ。

次回は、キー合成の新機軸Ultraキーについて、実写素材とチャートを使った検証を交えながら紹介していく予定だ。