インテルCEO(当時)パレット氏に度肝を抜かれる

研究内容が専門家によって書類上で評価され、静かな舞台で粛々と表彰される。これまでの「科学コンテスト」は非常に地味なイメージを持っていた。だから、世界で一番大きな高校生の科学コンテストだと聞かされても、ピンとこなかったというのが、初めて「Intel ISEF(インテル アイセフ)」を訪れるまでの正直な気持ちだった。

国際科学チャレンジ『Intel ISEF 2010』取材レポート

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2002年のISEFに参加して、科学コンテストのイメージが変わった(写真は当時のウェルカムパーティ)

8年前のことだ。開会式のオープニングで度肝を抜かれた。当時インテルのCEOであったクレイグ・バレット氏がバイクに跨って会場の後ろから登場したかと思うと、花道を抜けて舞台まで走り抜けた。大歓声の中、バレット氏の「科学や技術を楽しんでくれ! エキサイティングな一週間を送ってほしい!」と高校生たちに向けて熱く語る様子に、一体何が起こっているのだろうとさえ思った。インテルはなぜこんなことをしているのだろう? 何をしようとしているのだろう? と。インテルの教育支援に興味を持つきっかけにもなった。米ケンタッキー州で開催されたISEFでは、とにかくこれまでの科学コンテストのイメージを覆された。その後、2004年のオレゴン州大会も取材したのだが、今年はそれから6年ぶりにISEF訪れることとなった。

本格的なグローバル化時代となって、そして、いわゆるデジタルネイティブと呼ばれる世代の高校生たちの「Intel ISEF」を興味深く取材することとなったのだ。


Intel ISEFとは何か?

「ISEF(International Science & Engineering Fair)」は、米国の非営利団体であるサイエンス・サービスが、1950年にボランティアで運営を開始した歴史ある科学フェアである。1997年からインテルが、教育支援の一環としてタイトルスポンサーに名乗りを上げ、以来、継続して活動を強力にバックアップしている。年に一度、米国で5月に実施され、2010年は、5月9日~14日の期間、カリフォルニア州サンノゼ・コンベンションセンターで開催された。

「2010 Intel ISEF」はカリフォルニア州サンノゼで開催

ISEFには、開催年の前年に、世界中の国や地域で行われるISEF提携の科学フェアから選抜された高校生たちが参加できる。世界各国の提携フェアは、550以上にのぼり、地域コミュニティや大学が主催するもの、政府主催の科学コンクールなどISEF参加を後押ししている国もある。日本では、朝日新聞社が主催する 「JSEC (ジャパン・サイエンス & エンジニアリング・チャレンジ) 」と、読売新聞社などが主催する「日本学生科学賞」 で上位入選した高校生が、翌年のIntel ISEFに参加できる。参加者たちは、各地の予選フェアを勝ち抜いてきたことを称えられ、「Finalist(ファイナリスト)」と呼ばれている。

開会式や授賞式はサンノゼ大学の講堂で行われた

特許申請20%、企業や大学が注目

今年は55カ国から1,611人が参加。学生たちはさまざまな科学上の問題の解決に取り組んでおり、その研究内容を披露した。審査員たちもノーベル賞受賞者、米軍関係者、博士号保持者などを含むプロフェッショナルら総勢1,200名という陣容だ。

開催地であるサンノゼといえば、サンタクララやパロアルトを合わせたシリコンバレー地区だが、そのためもあってか、今年はプライマリスポンサーとして、グーグルが初参加した。アジレント・テクノロジー、アプライド マテリアルズ、シスコ、リコー、ラムリサーチ、シマンテックなど、ハイテク企業がスポンサー&パートナーとして名を連ねていた。

その他にも、大学や専門学校、政府機関、IEEE財団や米歯科協会など、科学や技術に関連した幅広いエリアからの各種団体、コミュニティ等が支援をしている。同大会で発表される研究は、その中の20%が特許を申請するレベルに達しており、学術機関や一般企業などが注目する理由の一つにもなっている。企業や大学にとっては、優秀な人材の発掘場ともいえるだろう。

ライブコンサートさながらの華やかな開会式、巨大フロアでの個別ブースによる研究展示とプレゼンテーションによる審査、夜はダンスパーティやミュージアムを貸し切ったエンターテインメント、スポンサー企業によるワークショップやシンポジウム──参加学生たちには、他国の高校生たちとも交流を持ったり、世界レベルの科学者や企業のエンジニアたちから直接話を聞いたりできる貴重な機会が、実に多く用意されている。

各国のファイナリスト同士で記念写真を撮ったり、ピンバッジ交換をしたり。このピンバッジ交換は、Intel ISEF恒例となっている。「Exchange Pin?」と声を掛けやすいため、交流のきっかけに。8年前にはすでに恒例となっていたから始まったのだろう

自作ブース内での面談形式による審査

Intel ISEFは大会規模もさることながら、審査方法が特徴的だ。まず、コンベンションセンター内の広い会場内に、ファイナリストたちは各自の展示ブースを与えられる。フェア会場に到着したファイナリストたちは、早速ブースの設営作業に取り掛かる。下準備はしてきてはいるが、パネルを掲げたり発明品を展示したり、PCや電気機器類が正常に稼働するかを確認したりと、かなり忙しい様子だ。後日、ここには審査員が直接訪れるため、研究をきちんとアピールするためにもブース設営は真剣に取り組むべき重要なものとなっている。

下準備してきたパネルや発明品のパーツを組み立て、飾り付けを行う。研究内容によっては、設営にかなりの時間を費やすファイナリストも

会場の中央に用意された「ツール&サプライコーナ」。ありとあらゆる工具等が貸出可能となっている

最初の2日間は、展示ブースの設営や準備に当てられる。3日目の午後からは会場への出入りが禁止となり、4日目の午後に審査となる。前述のように、ノーベル賞受賞者や博士号保持者、そしてインテルフェローを始めとする企業のプロフェッショナルが審査員を務める。当日は、審査員とファイナリストら関係者以外は会場内に入ることが禁止される。

動物、行動社会、生化、細胞/分子生物、化学、コンピュータ、地球、技術/生物工学、電気/機械工学、エネルギー/輸送、環境科学、環境管理、数学、薬学/保健学、微生物、物理/天文、植物科学と、審査科目は17分野にも及ぶため、迷子にならないように大きな「HUB」が目印となっている

各分野の審査員たちは、担当のブースを訪れ、研究した学生本人から直接プレゼンテーションを聞き質問を行う。経験豊富な審査員を前に自分の研究をアピールするのだから、相当な緊張をともなうことだろう。しかし、英語圏以外からの参加者たちも皆、大変積極的に英語での質疑応答を行い、自分たちの研究のアピールを行う。


上の動画は審査会場の様子(公式Video Galleryより)。写真やイラスト、グラフなどを使い、研究内容をよりよく理解してもらうための工夫が見られる。大きな特別賞の中には、展示や写真の良さなど独自の基準で評価するものもある。プレゼンテーションでデモ実演を行うプロジェクトも多い。

インテルでは、春休みの数日を利用して、日本代表の高校生向けに研修を行っている。高校生たちは、ISEFの活動を支援するNSS(特定非営利活動法人日本サイエンス・サービス)に属する、ISEF参加経験者たちからのアドバイスを得ながら、英語やプレゼンテーションといったスキルを学び、フェアに臨む。

審査内容には、創造性、科学的思考/技術的目標、計画性、技能性、明晰性が含まれる。チームプロジェクトにはチームワークも基準に加わる。

ISEFには細かい国際ルールが決められており、審査前に、提出済みの書類と合わせて展示やプレゼンテーションの内容が規定内にあるかどうか最終チェックが行われる。事前に3日の期間を取るのは、審査の公平性を保つためでもあるようだ。

審査終了後、5日目は、一般来場者向けの展示日として公開され、最終日がアワードの発表と授与式となっている。

本レポート第2回では、審査の合間に行われたシンポジウムやイベントの様子をお伝えしよう。

参加者たちは、初日の夜は「ピンバッジ交換ディナー」に、2日目はサンノゼ大学の中庭で「オープニングセレモニー・ディナー」に招待された。ファイナリスト同士の交流を目的にしている

各国のファイナリストたちからサインを集める高校生の姿も