「インターネット上の脅威は増えるばかり。皆さんも万全のセキュリティ対策を」――こんな啓蒙めいた話を頻繁に耳にするが、昨年末から年初にかけて大流行したガンブラーを除くと、これといった大きな被害を聞くことはほとんどない。「果たして本当に脅威が増えているのか」と、疑問に感じている読者諸兄も少なくないのではなかろうか。

そこで本誌はトレンドマイクロでインターネット上の脅威について研究しているリージョナルトレンドラボを訪問。最新の脅威について話を聞いてきた。興味深いデータも数多くあったので、以下簡単にご紹介しよう。

トレンドマイクロのオフィス

「増える」ではおさまらない! "跳梁"しているWeb脅威

なんとも急な展開で恐縮だが、早速、冒頭の「本当に脅威は増えているのか」という問いに答えさせていただこう。

答えはズバリ「本当に増えています」。残念ながら、世間の噂どおり、脅威は増えているようである。

ただし、「増えている」という言い方にはやや語弊がある。現在の脅威に関してより正確に表現するならば、「横行している(悪事がしきりに行われること。ほしいままに振る舞うこと - 大辞泉より)」、「跋扈している(わがもの顔に振る舞うこと。のさばりはびこること - 大辞泉より)」、「跳梁している(反徒悪人などが勢力を伸ばし、好き放題なふるまいをすること - 大辞泉より)」などと、普段は使う機会の少ない言葉を当てはめたくなるほど激しく増えているのである。

トレンドマイクロ セキュリティエキスパート本部 セキュリティエンハンスメントサポートグループ Threat Monitoring Center 課長 飯田朝洋氏

具体的な数字を出そう。トレンドマイクロ セキュリティエキスパート本部 セキュリティエンハンスメントサポートグループ Threat Monitoring Center 課長の飯田朝洋氏によると、現在、新しいウィルスが実に「約1.5秒に1個のペース」で発生しているそうだ。

「最近まで、新種ウィルスの発生ペースについては、約2.5秒に1個とアナウンスしていましたが、新たに統計をとった結果、さらに速まり、約1.5秒に1個であることがわかりました。1カ月で換算すると、約170万個の新種が発見されていることになります。4年前の数字に比べると約26倍です」(飯田氏)

もはや並みの人間では実感するのが難しい水準だ。個人の生活にどんな影響を及ぼすことになるのかまったく想像がつかないが、危険な状況にあることだけは十分に察しがつくだろう。

話題にならなくて当たり前! 最近の脅威はこっそり情報を盗むんです!!

では、なぜガンブラーのように大きな話題になる事件がないのか。毎月170万個もの新種ウィルスがインターネットの世界でデビューしているのなら、世に名を轟かす大物も結構な頻度で現れそうなものだが、どれも表に出てこないのはなぜなのだろうか。

その答えは非常にシンプル。単純に「こっそり情報を盗むものばかり」(飯田氏)だからである。

「昔の不正プログラムは、"ユーザーを困らせること"自体を目的として作られていました。どれも派手な動きをするものばかりで、感染するとユーザーはすぐに気付きました。しかし、最近出てきているのは、営利を目的としたものが大半。クレジットカード番号などの個人情報を盗み出し、それをブラックマーケットで売り払って利益を上げることがねらいです。したがって、PCの内部などにひっそりと身をひそめ、各種のデータを監視しながらこっそりと情報を盗み出し、それをWebブラウザなどがデータを送信するタイミングに合わせて気づかれないように悪意あるサーバへ送っています」(飯田氏)

つまり、昔は広く知られるものほど優秀な不正プログラムだったわけだが、現在はまったく知られずに情報収集し続けるものほどよくできた不正プログラムになるようだ。ちなみに、この傾向は「2003年ごろから顕著なってきた」(飯田氏)という。