ヴイエムウェアは6月8日、米VMwareが昨年買収したSpringSourceの創設者Rod Johnson氏の来日に伴う説明会を実施。VMwareの事業戦略におけるSpringSourceの位置付けや、この2カ月で買収したプロダクトについて紹介した。

米VMware, Middleware事業部 シニアバイスプレジデントのRod Johnson氏

Johnson氏は、オープンソースのJavaフレームワーク「Spring Framework」の開発者として知られる。2004年、当時標準技術として利用されていたものの、動作が遅く、プログラミングも煩雑だった「Enterprise JavaBeans」に代わるプログラミングモデルを採用したフレームワークとしてSpring Framework 1.0をリリース。同プロダクトがJava開発者の間で評判になり、氏の名も世間に轟いていった。

その後、SpringSourceを設立してSpringのサポート業務を行うかたわら、同フレームワークに関連するツールやミドルウェアも次々と開発。さらに、Groovy/Grailsの開発元である米G2Oneをはじめ、さまざまな企業買収も進め、Java関連の開発プロダクトを充実させていった。

そして昨年8月、総額4億2000万ドルでVMwareがSpringSourceを買収。これにより、SpringSourceはVMwareの1事業部門という位置付けになったが、その後もクラウドコンピューティングなどの広い視点から足りないピースを補うかたちで企業やプロダクトの買収を進めている。

こうした活動の結果、現在では、開発向けのプロダクトに限らず、tc Server、RabbitMQ、Gemfire Enterpriseといった実行環境で利用するプロダクトや、Hyperic HQなどの管理監視用プロダクトもポートフォリオに加え、より広範なサポートを行うOSSベンダーに成長。Spring Frameworkの採用件数も伸ばし、「200万人のJava開発者に使用され、WebSphere、WebLogic、Tomcatの3つの主要アプリケーションサーバで動くアプリケーションの約50%がSpring Frameworkをベースとしたものになっている」(Johnson氏)という。

SpringSourceの普及状況を示す調査結果

※ SpringSourceが提供する主なプロダクトに関しては、以下の記事もご参照ください。

【ハウツー】概説 Springプロダクト(1) - まずはSpringの歴史と主要プロダクトを一覧
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/03/11/spring1/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(2) - 柔軟な配備を可能にするSpring DM
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/03/18/spring2/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(3) - Spring Securityでユーザ認証/アクセス制御
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/03/25/spring3/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(4) - Spring RooでサクサクWebアプリを作る
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/04/01/spring4/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(5) - Spring 3.0時代のSpring MVCを知る
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/04/09/spring5/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(6) - FlashとJavaをつなぐ「BlazeDS Integration」
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/04/23/spring6/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(7) - Java EE開発をライトにするGrails
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/05/14/spring7/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(8) - EIPに基づく統合を実現するSpring Integration
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/05/21/spring8/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(9) - tc ServerでWebアプリをモニタリング
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/05/27/spring9/

【ハウツー】概説 Springプロダクト(10) - モジュール化を支えるSpring dm Server
http://journal.mycom.co.jp/articles/2010/06/03/spring10/

SpringSourceが目下強く意識しているのがPaaS(Platform as a Service)環境の提供だ。プラットフォームに依存することなくアプリケーションを自由に移せるクラウド環境の構築を目指し、ポートフォリオの拡充を行っている。その一環として、先述の「RabbitMQ」を提供する英Rabbit Technologiesを4月に、「GemFire」を提供する米Gemstone Systemを5月に買収している。

どのクラウド環境にもディプロイできるオープンなPaaS環境の提供を目指している

これらのうち、RabbitMQは、Advanced Message Queuing Protocol(AMQP)に準拠した「高速、高信頼性、高可用性、高拡張性を備えるオープンソースのメッセージングシステム」(Johnson氏)になる。Johnson氏は、「クラウドの採用が進むと、パブリッククラウドとプライベートクラウドでの連携など、システム間のやりとりが増えていく」としたうえで、「メッセージングは実用性の高いクラウドを実現するうえでの重要な要素の1つ」と認識していることを説明。そのキーテクノロジーをSpringプラットフォームに取り込むべく、RabbitMQの買収に踏み切ったことを明かした。

一方のGemfire Enterpriseは、分散データキャッシュを実現するミドルウェア。やはり拡張性や可用性に優れ、パフォーマンスの高速化が期待できる。Johnson氏は、分散データキャッシュについて「データが分散して格納されることが増えると予想されるクラウド環境において必要不可欠な技術」と説明。さらに、銀行や米国防総省など、データ転送が厳しい業界でも多数採用されていることを紹介し、導入効果の高い製品であることを強調した。

GemFire、RabbitMQを買収

さらにPaaSの実績として、米SalesForce.comと協力してSpringSourceのプロダクトをベースとしたPaaS環境「VMforce」を提供していることや、米Googleとの提携によりGoogle Web ToolkitとSpring Rooを組み合わせてWebアプリケーションを容易に開発でき、さらにそれをボタン1つでGoogle App Engine上にディプロイできるようになっていることなどを説明した。

米SalesForce.comや米Googleと提携

Johnson氏はこの1年について「非常に忙しかった」とコメント。VMwareに買収された後も、これまで以上のペースで企業提携や買収を進めてきたことを振り返っていた。

なお、VMwareの仮想化技術とSpringSourceプロダクトとの技術連携については、現在のところ目立った成果が見られないように思えるが、この件に関してJohnson氏は、「Hyperic HQとVMware vCenter Serverの統合を進めているほか、RabbitMQとVMwareの技術連携なども行っている。両社の開発成果は、今後数カ月で皆さんの耳にも届くはず」と述べ、そう遠くないうちにVMwareとSpringSourceの技術統合に関する発表が行われることをほのめかした。