日本電信電話(NTT)は5月7日、マルチユーザMIMO(MU-MIMO)を利用した毎秒1ギガビット(1Gbit/s)超のリアルタイムデータ伝送に世界で初めて成功したと発表した。
現在一般に利用されているIEEE 802.11nやWiMAXなどでは、無線LANの親機と端末が複数のアンテナで並列にデータを伝送する空間多重通信技術「シングルユーザMIMO」が採用されている。しかしこの方法では、アンテナ数の少ない小型の端末では並列伝送を実現できず、親機の能力を十分に活用しきれないといった課題があるという。
マルチユーザーMIMOでは、複数のアンテナを持つ送信局(無線LAN親機)側が、無線信号の振幅や位相などを調整して受信局(端末側)での無線信号の品質を最大化する「ビームフォーミング制御機能」が用いられる。これによって他の端末の無線信号と干渉せずに通信することが可能となるため、同時に複数端末が同一チャンネル上で高周波数を共用できるのが特徴。
多くの信号をリアルタイムでビームフォーミング制御することはこれまで困難とされていたが、同社ではゼロフォーシング(送受信局間のチャネル推定情報から伝達関数行列を求め、その逆行列を送信信号に乗算して送信することによって空間多重されている複数端末の受信信号間で互いに干渉を発生させない方式)型アルゴリズムと同アルゴリズムの動作を同一処理の繰り返しによって実現する「逐次更新型演算技術」をFPGAに実装することなどによって、最大6台の端末との間で(合計で)最大伝送速度1.62Gbit/sでのリアルタイム無線伝送を実現したという。
マルチユーザMIMOはIPTVなどのマルチメディアコンテンツの無線伝送に対する有望な技術とされている。同社では今後、マンションなど無線LAN親機が高密度に設置される環境における干渉制御技術などの研究開発を進め、2012年12月に完了予定とされている次世代無線LAN(IEEE 802.11ac)の標準化活動を推進するとしている。