日本ではなかなか普及しないUCだが、国立成育医療センターでは医師や関係者のスムーズかつ安全なコミュニケーションをサポートするものとして試験的に利用が開始されている。業務効率化のためのIT利用はあまり活発ではないとされる医療分野では大変珍しいUCの活用事例を紹介しよう。

国立高度専門医療センターが選んだマイクロソフトの医療ソリューション

東京都世田谷区にある国立成育医療センターは、全国に6カ所存在する国立高度専門医療センターの1つだ。特に周産期の産婦人科と小児科が主体ではあるが、胎児から大人への健やかな成長と発達に関わる、総合的な医療と研究を行っている。

広々とした敷地には緑が多く、建物の内部にも遊具が設置されるなど、子供にとって居心地の良さそうな環境が整えられているのも特徴だ。入院病床数460床。正職員700人を含む1400名の関係者が働く、国立高度専門医療センターの中では比較的新しい施設となっている。

国立成育医療センターのロビー。色とりどりのオブジェが飾られ明るい雰囲気になっている。下のフロアでは、さまざまな飲食店が並んでいる

国立成育医療センター1階に設置されたセーフキッズトレイン。車体横に設置されたドアから内部に入れる造りになっており、家庭で起こりうる事故を親子で学ぶことができる

2002年に設立された後、6年ごとに行われるシステム更新時期の第1回を迎えた2008年に、次期システム構想に基づくITインフラの再構築を実施。その際に採用されたのが、マイクロソフトの製品群だった。

マイクロソフトでは6年ほど前から中小の医療機関を対象にシステム提供を行っており、近年では大規模な医療機関でも導入事例が出てきている。メディカル分野に特化した製品を持っているわけではなく、汎用的な製品を活用してのシステムだ。

医療現場で生命リスクを低減するUC

国立成育医療センター 臨床研究開発部 医療情報室長の山野辺裕二氏

国立成育医療センターには、大きな特徴が1つある。それは、ITシステム部門が設けられており、医師免許を持つ専任者が存在するという点だ。6つの国立高度専門医療センターの中でも類を見ない特徴と言える。

そのシステム担当の"専門医師"が、臨床研究開発部 医療情報室長である山野辺裕二氏だ。氏は、「元は医療ITを担当しており、研究と病院の2部門のうち病院側が専門なのですが、電子カルテや画像処理関連など広く活用される分野が増えてきたことから、さまざまなシステムに関わることになっています」と自身のバックグラウンドを語る。

医師がどのような活動をしているのか、現場医師の要望はどうなのかという点を聞き取るだけではなく、自らの感覚で知っている山野辺氏が、ITインフラ再構築が一段落した後、目を向けたのがユニファイドコミュニケーション(UC)だった。

現在、医療現場ではPHSが活用されている。以前は医師がポケットベルを持ち、連絡を受けた後に折り返し連絡をしていた。今では、医師や看護師が持つPHSが直接呼び出される。連絡を早くつけたいという目的に対しては良い解決策であり、医師や看護師、各職員間の連絡はスムーズになった。

しかし、いつでも呼び出されてしまうという問題がある。一般企業で働くビジネスマンはもちろん、プライベートで携帯電話を使う上でも同じような不便さを感じる人は多いだろう。しかも医療機関の場合、不快感や不便さの問題では済まされない。診療中や調剤中に携帯が振動しだした場合には、患者の生命を脅かすことにもなりかねない。

「手術時には外に置いておきますが、診療中にPHSが鳴ることもあります。その時に直接対応はしないとしても、診療中に電話が来ることで気がそれること自体が問題です。この人は今電話をとれる状態なのかどうかを判断してから連絡できる仕組みが必要だと感じていました」と山野辺氏は語る。