T2K実験国際コラボレーション、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、東京大学宇宙線研究所、J-PARCセンターらは、T2K実験(Tokai to Kamioka)グループが2010年2月24日午前6時00分に、茨城県東海村の大強度陽子加速器施設(J-PARC)のニュートリノ実験施設において人工的に発生させたニュートリノを、約295km離れた岐阜県飛騨市神岡町の検出器「スーパーカミオカンデ」において検出することに成功したことを発表した。

T2K実験の概要(上)とJ-PARCの航空写真(下)(J-PARCでは、陽子をリニアックで加速後、3GeVシンクロトロンを経てメインリングに送り込む。陽子をキッカーとよばれる電磁石により内向きに蹴りだし神岡の方向に向けた後、ターゲットに衝突させニュートリノビームに変換、スーパーカミオカンデに向けて発射する。ニュートリノビームはJ-PARC内の前置検出器を用いても観測されているので、スーパーカミオカンデの観測結果と比較することで、ニュートリノが飛行中に別の種類に変わる「ニュートリノ振動」の研究が可能となる)

T2K実験は、J-PARCで作り出したニュートリノビームを、295km離れたスーパーカミオカンデで検出し、未発見のミュー型から電子型へのニュートリノ振動などを測定することで、ニュートリノの質量や世代間の関係など、まだ知られていないニュートリノの性質の解明を目指す実験プロジェクト。

J-PARCニュートリノ実験施設のイメージ図

年間約1,600個のニュートリノを検出することで、物質をつかさどる究極の法則の手がかりを得ることを目標としている。T2K実験は日、米、英、伊、加、韓、スイス、スペイン、独、仏、ポーランド、ロシアの12カ国から500人を越える研究者が参加する国際共同実験で、日本からは大阪市立大学、京都大学、KEK、神戸大学、東京大学、東大宇宙線研究所、広島大学、宮城教育大学の総勢約80名の研究者と学生が参加している。

T2K実験は、2009年4月にはニュートリノビームの初生成に成功、ビーム調整を開始、同年11月には前置検出器においてニュートリノの初検出に成功した。2009年中にビーム調整をほぼ終了し、2010年に入ってからニュートリノビームを本格的に神岡に送り始め、スーパーカミオカンデにおいて2月24日のJ-PARCニュートリノ初検出に至った。

スーパーカミオカンデ検出器で2月24日に観測されたニュートリノ反応事象(複数ある四角は光センサを表し、色は光を検出した時間を表す。ニュートリノと水との反応により生成された電荷をもった粒子が発したチェレンコフ光がリング状に観測されていることが分かる)

KEKらは、今回のスーパーカミオカンデにおける事象の初検出は、ニュートリノの未だ明らかになっていない性質の解明につながる第一歩としており、今後は、加速器からのビームをさらに増強しつつ、スーパーカミオカンデにおいてニュートリノ反応の観測を続け、新しいタイプのニュートリノ振動の探索などの研究を進める計画。

なお、J-PARCは日本原子力研究開発機構と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構が共同で建設した複合型の研究施設で、ニュートリノ実験施設、ハドロン実験施設、物質・生命科学実験施設で構成されている。