東京大学の大塚孝治教授らと、日本大学、日本原子力研究機構などで構成される研究チームは、原子核の存在限界、内部構造、質量を決定するシェル構造についての新たな統一的理論を発表した。米物理学会のPhysical Review Letters誌に掲載された。

原子核を構成する陽子や中性子の間には、各核子を結合する力(核力)と呼ばれる力が働くが、核力には複数の成分があり、その中のいくつかが核子が中間子をやり取りすることで働く。パイ中間子は中間子の中でもっとも軽く、これが1個陽子と中性子の間でやり取りされると、相互作用する2個の核子のスピン(自転運動)が揃っている場合「テンソル力」が働くこととなる。

陽子や中性子が単独にいる時に、それらの間に働くテンソル力の効果(矢印はスピンの向きを表しており、上の場合は引力、下の場合は斥力とになる)(製作:Carin Cain、APS提供)

テンソル力が働くと陽子と中性子の距離が同じでも、スピンの向きが並行か直角かで引力と斥力に変化する。これは2つの粒子の距離だけで力の大きさが決定され、これそのものはハイセンベルグの不確定性原理で理解できるが、これが原子核のシェル構造や魔法数をどのように変化させるのか、ということが謎となっていた。

陽子や中性子が原子核内の軌道上を周回運動している時に働くテンソル力の効果(帯状の矢印は周回運動の向きを表す。小さな矢印はスピン)(製作:Carin Cain、APS提供)

研究チームらは、今回の論文および以前の関連論文にてこの謎を明らかにした。研究では、テンソル力の効果は原子核の中での軌道を周回している陽子や中性子が相手に対し、反対向きに動いているか、並んで同じ向きに動いているかで引力か斥力かに変わり、かつモノポール項になっているため効果が蓄積することから、例えば陽子の数が変わればそれに比例して効果が大きくなることが示されたほか、寿命が短い「不安定核(エキゾチック原子核)」の魔法数、構造や存在限界に影響を与え、さまざまな実験データが統一的に説明できるようになることが示された。これは、その一般性から今後の実験への予言の期待や超重元素の探索などにも有用であるという。

エキゾチック原子核の物性を明らかにすることが目標の1つ

また、原子核中で重要な核力には大きく2つの項があり、1つはテンソル力であり、もう1つは強い繰り込みの効果を受けた中心力であることも示されている。なお、ここで示されたテンソル力には繰り込みの効果が極めて小さいという。

エキゾチック原子核は、超新星などの天体現象で短時間の間、大量および多種が生成され、それらの連鎖反応の結果、鉄より重い元素が作られたとされるが、この物質創生の道筋を明らかにするには、中性子捕獲とベータ崩壊の競争を正確に記述できる必要があり、そのためには不安定核の魔法数、形の変形、対相関といった物性の理解やニュートリノと原子核の反応の正確な理解などが求められる。

中性子やニュートリノなどとの連鎖反応により原子核が変化していく

今回の論文は、こうした謎の解明に必要な知識を与えるのに寄与するものと考えられている。

なお、同研究は、理化学研究所の世界最大級の重イオン加速器(RIビームファクトリ:RIBF)を活用し、エキゾチック原子核の性質を実験的に調査、探索が行われているが、それに理論的な予言を与え、研究の方向性を示すのにも貢献するほか、現在、世界各国で建設中のRIビーム加速器による研究に対する先導的な方向性を示し、天体での物質創生史の解明にも影響を与えるものと研究チームでは指摘している。

理研の重イオン加速器(超伝導サイクロトロン、鉄8,300t)