現在、NHKで放送中のドラマ「坂の上の雲」をご存知だろうか。私は昨年より放送を心待ちにしていたが、期待以上の作品に仕上がっており毎回楽しんでいる。今年から3年間に渡って放送されるのだが、今年の放送は12月27日の第5回で終了となる。運悪く見ていない人は今年5回分の再放送があることを祈ろう。

昨年、初めて松山を訪れた際、『坂の上の雲』という小説が来年(つまり今年2009年)からNHKでドラマ化されるということで盛り上がっていた様子を思い出す。

松山城から松山市内を眺める

松山城

道後温泉

松山城にほど近い「坂の上の雲ミュージアム」では、明治の歴史をこの小説に沿って学ぶことができた。秋山兄弟生誕地では秋山兄弟の銅像が迎えてくれた。お兄さんの秋山好古が西洋馬にまたがった銅像があるのだが、説明員の方によると当時の日本の馬はこれよりももっと小さい日本馬だったという。

「坂の上の雲ミュージアム」の中(左)と入り口

兄・秋山好古の像

弟・秋山真之の像

生家の外観

生家の中

松山城、道後温泉などの定番スポットを視察した後に残された課題は、小説『坂の上の雲』を読むことだった。『坂の上の雲』は司馬遼太郎による日露戦争を描いた長編歴史小説である。文庫本で全8巻というボリュームであり、じっくりと読み進めたい代物だ。

日本近代史は、明治維新や太平洋戦争といった歴史上のビッグイベントに注目されがちで、明治時代はあまりクローズアップされない。『坂の上の雲』はその明治時代に光を当て、日本人がどのように生きたかを描いている。では明治時代とはどのような時代だったのであろうか。

よく言われるのは、明治維新で近代国家となった日本が西洋列国に追いつこうと一丸となってがんばった時代というものだ。ある意味、昭和の戦後にも似ているところがある。

『坂の上の雲』の前半では、秋山兄弟や正岡子規などの若者が立身出世を夢見て上京し、勉学に励みつつも、自分の将来のあり方について悩むシーンが描かれており、さわやかな青春物語といった感がある。後半は日露戦争に関する記述が多くなるが、我々ビジネスパーソンにとって有益なことはこの後半にこそ書かれている。

私の知人は就職する際に父親から『坂の上の雲』を渡されたという。この父親は息子に何を伝えようとしたかっただろうか。

そのヒントにもなるであろう本を今回は紹介したい。『仕事で大事なことは『坂の上の雲』が教えてくれた』である。

『坂の上の雲』をダイジェストで楽しむかのような感覚!

本書は『坂の上の雲』からビジネスパーソンに役に立つ名言を32個選び解説したものである。

皆さんも会社において戦略を立てたりするだろうが、そもそも戦略とは戦争で用いられるものであるし、会社組織はある意味、軍隊のようなものだと言い切っても差し支えあるまい。

本書に収録されている名言からいくつかピックアップしてみよう。

名言その1: 戦いは、出鼻で勝たねばならぬ … メッケル

陸軍大学校の雇われ講師のドイツ人メッケルは、宣戦布告のあとで軍隊を動員するような愚はするな、とも言った。宣戦したときにもう敵を叩いている、というふうにせよ、と。

これはビジネスにおいてもまったくその通りで、これから会う人の下調べは十分に行って打ち合わせには望むべきだし、プレゼンにおいても最初のつかみが重要で、興味を持ってもらうように最初にしなければ聴衆は寝てしまうだけだ。

名言その2: 良句もできるが、駄句もできる。しかしできた駄句は捨てずに書きとめておかねばならない … 正岡子規

これは失敗学に通じる名言だ。皆さんの組織で失敗の記録は共有されているだろうか。

名言その3: 諸君はきのうの専門家であるかもしれん。しかしあすの専門家ではない … 児玉源太郎

旅順攻略で固定観念に固まった伊地知参謀などの専門家集団が作戦の実行を拒否しつづけたところへ児玉源太郎満州軍総参謀長が号を煮やして発した言葉。ビジネスにおいても、知ったかぶり、固定観念、思い込み、etc.……などが専門家や上司から出てくることは多い。上司が過去の成功体験に縛られ、部下の新しい提案を受け入れられなくなってはいけない。

名言その4: 人間は、自分の器量がともかくも発揮できる場所をえらばねばならない … 秋山好古

組織において最も重要なこと、それは適材適所である。上司は部下の適性を見極め、適した仕事を与えなければならない。一方、部下は自分のやりたい仕事があるならば、事あるごとに上司にアピールしたほうが良い。

名言その5: 軍参謀長でありながら、おのれの作戦の責任を他に転嫁するというなら、いっそステッセルのもとに行って責任を問うてきたらどうだ。貴官が強すぎます。責任は貴官にあります … 児玉源太郎

二百三高地攻撃の際に、児玉源太郎が伊地知参謀をやり込めた一言。ステッセルとはロシア軍の将校で、日本の陸軍を苦しめた人物である。この伊地知という男、『坂の上の雲』では最悪の人間として描かれているようだ。問題が起きたときに、人のせいにばかりする人に成長はない。これビジネスの常識である。部下の成績が悪いのを部下のせいにするのではなく、自分の教育の仕方が悪いから、と自責で考えたほうが建設的だ。

このように名言の詰まった本書と『坂の上の雲』、この冬休みのビジネスパーソン必読図書としてお勧めしたい。ドラマも一緒に楽しめること受け合いである。

仕事で大事なことは『坂の上の雲』が教えてくれた

古川裕倫 著
三笠書房 発行
2009年10月20日 発売
213ページ / 文庫本
定価 600円(税込)
ISBN978-4-8379-7822-0
出版社から: 司馬遼太郎の名著『坂の上の雲』に詰まった「生きる知恵」から、ビジネスに使える「考え方・ノウハウ」を徹底抽出! 秋山真之、東郷平八郎、児玉源太郎……日本の歴史を変えた男たちから学ぶ「行動指針」32!