Webサイトのデザイン、社内のネットワーク図、オフィスのレイアウト図、UMLなどドローツールに対する需要は高い。いくつかのローカルアプリケーションが存在するが、もっとも有名な Microsoft Visio は高価であり、利用頻度によってはコストメリットが出ない場合もある。またオープンソース・ソフトウェアやフリーウェアにもいくつか存在するが、オブジェクトが足りなかったり使い勝手の面でいまひとつなものも少なくない。

さらに最近では一人ですべてのドローを作成するのではなく、複数人で図の共有や編集を行なう需要が出てきている。その場合、ローカルアプリケーション型は、コスト的にも共同編集の面でも選択するのは難しい。そこで注目を集めているのがオンラインのドローアプリケーションだ。

今回は『Cacoo』というWebアプリを紹介したい。ヌーラボによる日本語向けのドローアプリケーションだ。

「Cacco」のトップページ。利用にはユーザ登録(無料)が必要

ドロー機能について

Cacooのおもな機能は Visio のようなドロー機能だ。あらかじめ多数のステンシルが登録されているので、目的に合わせてすぐに図を作成することができる。ステンシルはカテゴリ別に登録されており、「基本」「吹き出し」「ブロック矢印」「オフィス機器」「サイトマップ」「ネットワーク」「フローチャート」「オフィスレイアウト」「人」「スマイリー」「手書きワイヤーフレーム」「ワイヤーフレーム」「UML」「線矢印」となっている。

編集画面。ステンシルからオブジェクトを選んでドラッグ&ドロップで配置する。右側に表示されているのが基本図形のステンシル。オブジェクトを選ぶと、左側のインスペクタで設定を変更できる

基本/ 吹き出し/ ブロック矢印/ 線矢印などは、汎用的にどの種類のドローを行なう際にも利用できるだろう。なお、他のステンシルを含めて一つの図を作成できるので、ネットワーク図とサイトマップを織り交ぜたり、オフィス機器の説明に吹き出しを混ぜるといった使い方もできる。ここでは例として、サイトマップを使って操作の説明をしたい。

まずステンシルをドラッグ&ドロップで図に貼り付ける。貼り付けたオブジェクトはダブルクリックでラベルを変更でき、日本語を利用可能だ。オブジェクト選択時にインスペクタウィンドウに設定が表示され、フォント(サイズ・装飾・位置揃え)/ オブジェクトの色・枠線・影などを変更できる。ラベルを含めた回転処理も可能だ。

配置したオブジェクトは線種やグラデーションパターン、回転といった編集ができる

吹き出し。作成していく中で説明が必要な時に使える

ブロック矢印。汎用的に利用できる

画面上部には並ぶツールバーでは、入力内容の取り消し(アンドゥ)/ テキスト追加/ 画像のアップロードができるようになっている。ステンシルだけで足りない場合は、ここで画像を追加するとよい。サイトマップを作るなら、Webサイトのスクリーンショットを追加すれば分かりやすいし、開発状況も把握しやすくなるだろう。便利なのがオブジェクトを配置する際に、他のオブジェクトの位置に合わせて補助線が引かれる機能だ。Mac OS XのiWorkでよく見られる機能だが、適切な場所に簡単に配置できようになるのでストレスなく描けるだろう。

オフィス機器用。社内ネットワークや、ネットワークステンシルと組み合わせて利用できる

ネットワーク図用ステンシル。サーバやデータベースなど

フローチャート用。色分けされているので分かりやすいチャートができそう

各オブジェクトは線で結ぶことができる。ツールバーにあるコネクタの追加ボタンを押すと、マウスポインタが十字カーソルに変わる。この状態で任意のオブジェクト同士をドラッグ&ドロップで選択すると、両者が直線で結ばれる。線の太さ/ 始点・終点の形状(矢印やポインタ)/ 色はインスペクタで変更可能だ。オブジェクトを移動すれば、線も自動的に追従する。ただし、オブジェクトのグループ化や解除を実行すると、コネクタの連携も解除されるようだ。

オブジェクトにアイコンを配置したり、複数のオブジェクトをまとめて管理したい時に便利なのがグループ化だ。[Shift]キーを押したままオブジェクトを選択し、右クリックメニューまたはインスペクタのグループ化ボタンでまとめることができる。このあたりは一般的なドローソフトと同様の使い勝手なので迷わず操作できるだろう。

オフィスのレイアウトを決める際に。多数のステンシルが登録されている

人のアイコンはあまり多くない。Webサイトの対象決めなどで使えそう

チャットや絵文字で使えるスマイリーマーク

ラフなサイトデザインを行う際に使える手描きワイヤーフレーム

こちらは少しきっちりとしたワイヤーフレーム用

開発によく用いられるUML用ステンシル

こちらも汎用的に利用できる線矢印

共有/コラボレーション機能について

ドローは他のCacooユーザと共有することができる。共有には、メールアドレスやCacooユーザIDを使用する。複数人での同時編集は非常に効率的で、ローカルアプリケーションではあまり体感することのないスタイルといえる。そのため、他のユーザが編集している個所で作業してしまい混乱を招く可能性はあるだろう。それを防ぐためCacooではチャットウィンドウが用意されている。簡易的な1行チャットだが、メッセージを交換しつつ作成すればより効率的になるだろう。

共有機能を使って他のユーザを招待する

チャットウィンドウを利用して会話しながら図を描く

完成したデータを公開するには

Cacooでは"いまどき"のWebアプリケーションらしく、"埋め込みタグ"や"公開用URL"が提供されている。保存時に「URLで図を公開」を有効にすると、生成されたURLを配布することで非Cacooユーザでも閲覧できるようになる。公開した図は埋め込み用タグも生成されるので、ブログやWebサイトへの掲載は容易だ。たとえば、不動産物件のレイアウトなどを紹介する場合は、Cacooで図を作って埋め込むほうが、写真やテキストを使うよりは分かりやすく説明できるだろう。

公開する場合は保存時にURLで図を公開、にチェックを入れる

公開しているとユーザ登録していない場合も図が閲覧できる

埋め込み用ページ。画像として表示される

まとめ

この手のWebアプリケーションは、海外ではすでに複数のプレイヤーが存在する。「gliffy」「Lovely Charts」「creately」が有名だ。だが、英語圏向けのツールとあって日本語の利用に難があったり、有料版と無料版で機能差があったりと、使い続けるには少々問題があった。その点、Cacooは無料であり(将来的には分からないが)、日本語も問題なく利用でき、多数の図を簡単に作成できる。既存のドローアプリケーションの全機能を備えているわけではないが、たいていの図であれば作成するのに申し分ない程度の機能は備えている。個人やビジネスでも十分に役立つWebアプリケーションになるだろう。