日本CAは10月16日、ユーザーやパートナー向けの自社イベント「CA Expo 2009」を開催した。

基調講演では、米CAの副会長兼共同創業者であるラッセル・M・アーツ氏が「Practical Innovation - 実用的なイノベーション」と題する講演を行い、実用的なイノベーションとは何か、ITの潜在価値を引き出し、事業への貢献価値を高めるには何をすべきなのかなどについて紹介した。

CA副会長 兼 共同創業者 ラッセル・M・アーツ氏

CAでは、ITによる単なるコスト削減だけではなく、ITの潜在価値を引き出し、ムダを削減してスリムなITになるためのコンセプトとして「Lean IT」を掲げている。これらはイベントのメインテーマにもなっており、同氏の講演は、Lean ITを実践していくうえでのポイントをあらためて強調するものとなった。

同氏によると、さまざまな経済指標を見ると、米国経済は回復に向かう傾向が明らかになってきた。だが、一方で、収益性については、まだ良い状況にはなっていない。同氏は、こうした良いニュースと悪いニュースが混在し、予測が難しい時期にこそ、ITに対する投資を行うべきだとする。

「ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院の報告によれば、経済が後退期にあるときこそ、イノベーションを管理し、コスト管理を効率化していくべきだという。例えば、GE、IBM、マクドナルド、クラフト、ウォルト・ディズニーなどは、景気後退期に基礎を築き、革新を遂げた。また、インテルやマイクロソフト、アップル、シスコ、デル、AOLなどは、経済がマイナス成長のときに起業し、事業を拡大した。CAの創業も1976年という米国が深刻な景気後退に見舞われていた時期だった」

同氏は、勝ち残る企業というのは、景気後退を逆手にとることがうまく、景気が回復したときに他社を凌ぐことができると指摘。その際にキーになるのが、ITに対する正しい投資ができるかどうかであるという。

「成功する企業は、まずコストを削減する。そして、既存の設備を最適化し、全体のパフォーマンスを再設計する。これがイノベーションとなる。だが、ここで注意すべきは、それまでのイノベーションの蓄積をふまえて、正しい投資を行うということ。つまり、それが実用的なイノベーションということだ」

同氏は、実用的なイノベーションを、アイザック・ニュートンの「もし私が他人より遠くが見えるとしたら、それは巨人の肩の上に立って物事を見ているからだ」という言葉になぞらえる。これまでに蓄積されてきたすばらしいイノベーションをまとめあわせて(=巨人)、課題に対処していくことが求められるということだ。

また、実用的なイノベーションは、発明とは違うとも指摘。例えば、マイクロソフトの成功は、テクノロジーを発明したことによるものではない。「GUIのアイデアはXerox PARCであり、マウスを発明したのはスタンフォード・リサーチ・インスティテュート、マウスによるナビゲーションの初の製品化はアップルだ。マイクロソフトの成功は、成長する新しい市場を見つけたこと。そして、既存のテクノロジーを組み立てたことにある」というわけだ。

同じことは、アップルについても言える。iPodの成功は、先行して開発・製品化されてきた、デジタル・オーディオ・プレイヤーIXI、初の量産品であるMPMan、続くRio PMP300、HDDを搭載したPersonal Jukeboxなどのテクノロジーがベースにある。「アップルが革新的だったのは、それらすべてのエキサイティングな開発品を1つにとりまとめ、Windowsに対応したiTunesというプラットフォームと組み合わせたことにある。巨人の肩の上に乗るということをおそれずにやってのけた」という。

そのうえで、同氏は、コンピューティングのパラダイムを振り返ると、今まさに、テクノロジーの収斂・統合が起こっていると説明する。具体的には、メインフレームから分散コンピューティング(C/Sシステム)、C/SシステムからWeb2.0へと移り変わってきたパラダイムが、クラウド・コンピューティングに変化するなか、仮想化、SaaS、SOAなどの既存のテクノロジーの収斂・統合が起こっている。そして、実用的なイノベーションは、そうした既存のテクノロジーをクラウドとしてまとめあげていくことに直接的に関係してくるという。

というのも、クラウド環境では、メインフレームからC/Sシステム、Webプラットフォームなどを構成するさまざまな要素が混在し、そのなかで、パフォーマンス、セキュリティ、サービスレベルを確保していく必要がある。そのため、複雑化したクラウド環境をどう管理するかという視点が重要になる。CAが提供するアイデンティティ管理製品やパフォーマンス管理製品「Wily」、障害監視製品「SPECTRUM」などは、それらに対応するものであるとした。