計測機器の大手ベンダである米Agilent Technologiesの日本法人でアジレント・テクノロジーは10月2日、同社のスペクトラム・アナライザ「Xシリーズ シグナル・アナライザ」シリーズの最上位機種となる「Agilent N9030A PXA シグナル・アナライザ」およびローエンド向け低価格アナライザ「Agilent N9000A CXA シグナル・アナライザ」を発表した。いずれもすでに販売を開始しており、CXAは出荷も開始しており、PXAは11月の出荷を予定している。

低価格アナライザ「Agilent N9000A CXA シグナル・アナライザ」

最上位機種となる「Agilent N9030A PXA シグナル・アナライザ」(画面の黄色い線が何もしないままの波長データで、青い線がPXAのノイズ低減技術をONにした状態の波形データ)

アジレント・テクノロジーの取締役で電子計測本部長の梅島正明氏

同社が製品名に、一般的なスペクトラム・アナライザという名称ではなく、シグナル・アナライザとしていることについて、アジレントの取締役で電子計測本部長の梅島正明氏は、「スペクトラム・アナライザは、信号を周波数領域で調べる機器だが、Xシリーズは雑音指数やデジタル変調などの解析も可能だ。そのため、多様な信号解析が可能という意味でシグナル・アナライザとしている」とする。

すでに同社はミドルクラス向けに「Agilent N9010A EXA」および「Agilent N9020A MXA」の2シリーズを提供しており、今回の2シリーズが追加されたことで梅島氏は、「全領域をカバーすることができた。これにより、日本でのスペクトラム・アナライザ市場を席巻したい」と意気込みと見せる。

PXAとCXAがラインナップに加わったことで、全領域をXシリーズがカバーできるようになった

広帯域と低ノイズフロアを実現

最上位機種となるPXAは、最大3.6/8.4/13.6/26.5GHzの周波数帯域に対応したモデルが提供される。参考価格は3.6GHzモデルの「N9030A-503」で649万119円からとなっている。

アジレント・テクノロジー 電子計測本部 マーケティングセンターの佐久間洋氏

「同製品には、4つの特長がある」とアジレントの電子計測本部 マーケティングセンターの佐久間洋氏は語る。1つ目はパフォーマンスの向上で、解析帯域幅140 MHzを実現しながらも、ノイズフロア低減技術(NFE)と内蔵プリアンプにより2GHzで表示平均ノイズレベル(DANL)-172dBm/Hzを達成しているほか、-128dBc/Hzの10kHzオフセット位相雑音(1GHz時)を実現している。

PXAの測定性能

140 MHzの解析帯域幅を実現

低雑音レベルを実現するための2つの技術を搭載

前世代品PSAとPXAの位相雑音比較

NFEは、機種自身が有するノイズレベルをあらかじめ工場出荷時に装置に記録させておくことで、計測時にそのノイズと逆位相の波長を加えることで機種依存の雑音を打ち消す技術。また、3.6GHz以上のプリアンプ未使用時に、追加モジュールとして搭載されているプリアンプ回路をバイパスすることで、高周波帯のノイズフロアの低減が可能となるオプション「ローノイズパス(LNP)」も用意されており、これらを組み合わせることで、測定ダイナミックレンジの拡大および掃引時間の長時間化を抑制することが可能となる。

また単に広帯域なだけではなく、10GHzで±0.4dBに歪みを抑えることが可能であり、レーダ信号の解析や、4Gの研究開発、マルチキャリア・パワーアンプ(MCPA)などの開発用途にも対応する。

2つ目は複数の規格の解析が可能である。内蔵ソフトのほか、「Agilent 89601A ベクトル信号解析ソフトウェア(VSA)」を用いることで、70種類以上の無線規格解析が可能となるという。

Xシリーズがサポートする予定の無線規格一覧

3つ目は拡張性の維持。広帯域デジタイザなどの追加ハードウェア用拡張スロットを7つ用意しているほか、CPU部分などをモジュール化することで、CPUやメモリを常に最新のものに変更することが可能となっている。

4つ目は従来機種からの継続性。同社は1964年にスペクトラム・アナライザの提供を行って以来、30年以上製品を提供してきてたため、従来製品のカスタマが多い。そのため、新製品への移行などを簡素化するために、プログラムとハードウェアの互換性をエミュレータモードにより確保。既存機種に比べ、最大70%のテスト時間の高速化が計れるという。

1人1台を目指す低価格アナライザ

アジレント・テクノロジー 電子計測本部 マーケティングセンターの北野元氏

一方のCXAは、「電子デバイスに搭載される通信規格の数が増えるにしたがって、開発現場では高速、高性能、多規格性、低コストの実現という要求も突きつけられている。その結果、部署に1台の超高性能アナライザという方式よりも、1人で扱えて、ある程度のトラブルシュートが可能なアナライザへの要求が増している」(アジレントの電子計測本部 マーケティングセンターの北野元氏)という市場の動きに併せて開発されたもの。そのため、そうした通信デバイス系の開発に対応する3GHzおよび7.5GHzに対応する2モデルが用意されている。

価格は147万6,609円からとなっているが、PXAシリーズと同様、スペクトラム・アナライザのほか、ベクトル・シグナル・アナライザや簡易EMCアナライザ、ノイズ・フィギュアメータ、スカラ・ネットワーク・アナライザなどの機能が使用可能となっている。

例えば携帯電話はさまざまな通信規格を1つのデバイスで搭載しているが、開発側には通信規格をさらに増やしつつ量産効率の向上が求められているという

また、スペクトラム・アナライザの機能としては、「エンジニアが良く分からない信号を解析する場合でも、オートで最適周波数を提示する機能や、規格規定のパワー測定を1タッチで解析可能な機能などが搭載されている」(同)という。

1タッチでの測定が可能なほか、測定と解析を同時に実行することも可能

さらに、RF性能は±0.5dBの絶対振幅確度のほか、+13dBm(1GHz時)の3次相互変調歪み(TOI)、-145dBmのDANL(1GHz、プリアンプ・オフ時)、66dBのW-CDMAの隣接チャネル漏洩電力比(ACLR)ダイナミックレンジを実現しており、同社ミドルクラスのEXAシリーズや競合他社製品に対し、3GHz以下の周波数領域で上位機種に迫る値を実現しているという。

なお、同社ではPXAに関しては初年度国内200台、CXAに関しては初年度国内400台の販売を目指すとしている。

CXAは、低価格を実現しながら、解析性能は上位機種のEXA並みに引き上げられている