シャープが挑む3つの大きな転換ポイント
シャープは、3つの大きな転換に挑んでいる。
1つは、2009年10月から、大阪府堺市において、世界最大となる液晶パネルの新工場を稼働させることだ。
シャープ片山幹雄社長が、「21世紀型コンビナート」と表現する新工場は、亀山工場の約4倍となり、甲子園球場が32個入る127万平方メートルの広大な敷地に、世界最大となる第10世代の液晶パネル工場および、同じく世界最大となる薄膜太陽電池工場を設置。さらに、インフラ施設や部材、装置メーカーなどの工場群を集結させることで、液晶パネル生産および薄膜太陽電池の生産に必要なあらゆる業種・業態が参加する、コンビナート型の工場群が形成されるものとなる。
シャープが主力とする液晶事業、そして、今後の柱とする太陽電池事業を支える、まさに社運を賭けた一大プロジェクトということになる。
だが、シャープの置かれた立場は決して安泰ではない。これが2つめのポイントだ。
2008年度連結業績は、売上高が前年比16.7%減の2兆8,472億円、営業損失はマイナス554億円、経常損失はマイナス824億円、当期純損失は35.3%減となる1,258億円の赤字決算。通期業績での最終赤字は59年ぶりのものだ。
欧米諸国の景気後退に加えて、新興国における需要の減速、デジタル関連製品を中心とした市場価格の下落による利益の圧迫などが影響。なかでも、液晶テレビ事業は、出荷台数は前年比21.3%増の1,000万台となりながらも、売上高は、2桁のマイナスとなる10.4%減の7,293億円。そして、赤字に陥るという状況だ。
2009年度の業績予想も、営業利益は500億円、経常利益は200億円、当期純利益は30億円の黒字転換を見込むが、売上高は前年比3.4%減の2兆7,500億円と厳しい内容になると見ている。
競争が激しい海外事業比率が高まるなかで、収益バランスをいかにとるのか、またテレビ事業の黒字化に、いかに道筋をつけるのかが課題となっている。
そして、3つめのポイントが、製造業としての新たなビジネスモデルを模索しはじめた点だ。
シャープが挑むビジネスモデルの変革は、ひとことでいえば、「プラントを利用したエンジニアリング事業」となる。これは、シャープが単独で工場を建設というこれまでの手法ではなく、パートナーとの連携による工場建設モデルを推進するというものだ。
2010年度の稼働を目指し、イタリア最大の電力会社であるEnelと設立する太陽電池セル/モジュールの工場では、堺工場に導入する生産設備と同じものを導入するが、シャープは、直接的な工場建設に踏み込むのではなく、これに対して、技術および運用といった形でロイヤリティ収入を得る手法を導入する。初期投資費用を抑えながら、世界に拠点展開を進めるというわけだ。
「すべて自分の資金で工場を作り、それを世界に展開していたことが、いまのシャープの状態を引き起こした。それを乗り越えるためには、シャープ自身を変えなくてはならない」と片山社長は語る。
この手法は、中国・南京の南京中電熊猫液晶顕示科技の孫会社に売却する亀山第1工場の第6世代液晶パネル生産設備についても同じだ。ここでは、設備売却だけでなく、生産技術およびノウハウを売却することで収益をあげるといった形で応用されることになる。
一方で、伊Enelとは、太陽光発電を活用した電力事業にも乗り出す姿勢を見せており、自ら電力を創出するといった新たな事業にも乗り出す。
そして、この新たなビジネスモデルの推進は、シャープが掲げる「地産地消」モデルの推進を加速することにつながる。"地産地消"モデルとは、その名の通り、消費地ですべてを生産し、販売するという考え方。液晶テレビを例にあげれば、モジュール生産からテレビの組み立て体制を、日本、北米(メキシコ)、欧州(ポーランド、バルセロナ)、アジア (マレーシア)、中国(南京)の世界5極で生産する体制を整え、すべて生産から消費まですべて現地で対応するというもの。これを順次、液晶パネルそのものにまで遡り、"地産地消"体制を強化することになる。そして、太陽電池に関しても同様の体制を整える考えだ。
「世界で戦うという観点で見れば、日本で液晶パネルを生産し、それを全世界にばらまくという手法は、人件費の問題、国からの補助金の問題、為替の観点でハンディキャップがある。これまでは、それを埋めるために、技術力だけで戦ってきた。この技術力をもって、海外メーカーと同じ土俵で生産できるようになれば明らかに勝てる。だからこそ、パネル生産でも、自ら世界に出ていく」と、片山幹雄社長は"地産地消"モデルの推進に意欲を見せる。
いま、シャープは、世界で戦う企業への転換を進めている。そのための苦しい時期を迎えているのが現状だ。次の成長に向けた準備が着々と進んでいる。