--IBMは今年に入ってから、Smarter Planetというビジョンを出しています。これはIBMが取り組んできた基礎技術を組み合わせた上で描いた世界を示したものです。マイクロソフトが基礎技術をもとにして描く世界とは、どこが異なりますか?

ホン Smarter Planetは、大変すばらしいビジョンです。ただ、これは3つのスクリーンと1つのクラウドによって実現する一部のものだと考えています。マイクロソフトが目指しているのは、Smarter Planetというソリューションを実現するためのEnableな技術というわけです。もともと、マイクロソフトとIBMは異なる性質を持った企業です。マイクロソフトは技術、ソフトの会社であり、ソリューションの一部を提供する会社です。そのためには、業界のあらゆる会社とコラボレーションしていかなくてはならない。

一方でIBMは、システムインテグレータであり、ソリューションプロバイダー。ソリューションを提供するために、やはり、どこかの企業と連携しなくてはならない。マイクロソフトとIBMはそういう関係を築くことで、新たなソリューションを提供すことになる。様々な技術を持ち寄り、連携協調しなくては社会に貢献するソリューションができないと考えています。

--日本において、マイクロソフトリサーチアジアは、どんな取り組みをしていますか?

ホン 大きな成果といえるのが、日本の大学との連携プログラムを通じた実績です。マイクロソフトリサーチでは、全世界100を超える大学から3000人以上のインターンを受け入れた実績があります。日本からも大学院生を対象にしたインターシップおよびフェローシッププログラムの実施のほか、COREプロジェクトやカリキュラム開発など、44のプロジェクトを支援した実績がありますし、マイクロソフトリサーチが主催したFaculty Summitに、日本国内の15大学40人の教授が参加し、意見を交換しました。

さらに、若手研究者の育成を目的に、MSR(マイクロソフトリサーチ)日本情報学研究賞を設立しています。昨年は、東京で自然言語処理ワークショップを開催し、日本からの30人の研究者および学生が参加。アジア太陽地域全体からは、90人の研究者が参加しました。今年は、コンピュータサイエンスの最先端研究領域を拡大することを目的に、21世紀コンピューティングカンファレンスを通じた学術交流などにより、環境、文化遺産の保存、ヘルスケア分野などにおいて相互が興味のある分野を見つけていく活動のほか、世界レベルの研究者の育成に向けて、日本発のイノベーションの創出のための人材育成、日本が得意とするロボットや組み込み技術分野の人材育成などで連携していく考えです。

21世紀コンピューティングカンファレンスは、11月に慶應義塾大学の日吉キャンパスと、京都大学の吉田キャンパスで開催しますが、チューリング賞や京都賞の受賞者といった世界レベルの研究者が参加する、コンピュータサイエンスに関する日本初のカンファレンスとなります。

--なぜ、マイクロソフトは日本の大学との連携に力を入れているのですか?

ホン それには3つの理由があります。大学で行われる研究は基礎研究がほとんどです。その一方で、マイクロソフトのような企業は基礎技術を発展させていくしか生き残る道がない。ハードは磨耗しますから、それによって買い換えるという需要が出てくる。しかし、ソフトの場合は磨耗しませんから、技術の進歩がなければ新たなソフトを購入してもらえない。消費者はソフトに新たな技術を求めている。マイクロソフトが生き残るために先端技術を追求し続けることは必要不可欠であり、そのためにも大学との連携は大変重要な取り組みだといえます。

2つめには、マイクロソフトの技術、プラットフォームそのものを理解していただき、これによって先進的な技術、新たな社会を構築できる環境を作り上げる。マイクロソフトの技術を大学に対して公開しているのもそのためです。

そして、最後に、日本の大学と組むことで、日本の大学が持つユニークな強みを活かせる。例えば、環境、グリーン、代替エネルギー、医療などの分野において、日本の大学は先行しています。日本の大学との連携を通じて、社会に対して大きな貢献ができると考えています。