「Interop Tokyo 2009」に併催して行われた、「デジタルサイネージジャパン2009」。11日に行われた基調講演では、デジタルサイネージコンソーシアム(以下、DSC)理事長の中村伊知哉氏を中心に、総務省の谷脇康彦氏、経済産業省の村上敬亮氏をパネリストとして、「デジタルサイネージと新しい都市空間市場の創出」と題したディスカッションが行われた。

日本の潜在力は世界をリードできる

デジタルサイネージコンソーシアム理事長 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授 中村伊知哉氏

前半は各氏によるポジショントーク。始めに中村氏がDSCの取り組みと課題について説明を行った。DSCには現在150社が参加しており、約650億円の市場を2015年までに1兆円規模の産業とすることを目標としている。同氏は「ディスプレイ、ネットワーク、コンテンツの3つの分野の潜在力により、日本が世界の市場をリードできる」と考えを示した。

ここ数年広告の市場は落ち込んでおり、ネット広告が増えてはいるもののトータル規模は大きくなっていないことから「広告の観点でデジタルサイネージを眺めてみると、新しい市場をどう生み出すかが重要」。しかし一方で「ディスプレイ、ネットワーク、コンテンツの広がりを見ると、(広告の)枠を外して見た方が良いのではないかと考えている」という。

具体的には、金融・交通・娯楽施設などの分野において営業や経営企画方面の予算、また教育・医療・行政機関などの分野において国や自治体の予算が投じられる可能性を挙げ、様々な側面で幅広く動いていく中で「行政特区等での実証実験や法制度の整備など、政策としてどう応援していくか、また業界としてはコンテンツをどう開発していくかが課題」だと述べた。

デジタルサイネージは3つの分野の総合力(上)/広告市場規模の推移(下)

世界同時進行で普及するデジタルサイネージ例

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総務省 情報通信国際戦略局 情報通信政策課 課長 谷脇康彦氏

続いて総務省の谷脇氏は、昨年発足した同省「ICTビジョン懇談会」が6月に提出した報告書の内容を中心に、重点戦略や今後の展望について述べた。外需に頼ってきた日本は世界同時不況によるダメージを大きく受けたが、経済状況が良いときも悪いときもICT分野にはそれを上に引き上げる効果が見られる。特に「この5年間は、経済成長に占める1/3をICTが牽引してきた」ことから「ICTが今後の経済成長の切り札になると考えている」。

同報告書がまとめた4つの重点戦略では、利用者本位の電子政府の実現により「行政情報をデジタル化し、解放して、民間情報とのマッシュアップを図る」ことや、放送・通信における電波のマルチユース等、産業の成長に向けた制度を整備するため、来年度国会に総合的な法体系見直し案を提出することなど、12項目が挙げられている。

実現に向けた取り組み方針としては、優れたシステムの海外展開を支援する「ユビキタス・アライアンス・プロジェクト」や、海外展開のための新たな技術を国内で開発する「ICT先進実証実験事業」のほか、今秋にはデジタルサイネージのフォーマット共通化の技術実証を進めると説明した。

経済成長に対するICTの寄与(上)/「スマート・ユビキタスネット社会実現戦略」の重点戦略(下)

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経済産業省 商務情報政策局 メディア・コンテンツ課 課長 村上敬亮氏

経済産業省の村上氏は、六本木エリアにおける「空中美術館」など、電波や各種センサーを使ってエリアごとIT化する「e-空間」の様々なイメージモデルを提示。実験にこぎ着けていないものも多いが、「リアルと空間を通じて、そこに紐づけられている情報をマッシュアップする仕組みを作りたい」とその意図を説明した。

こうした取り組みの入口においては、「大事なのはハードなのか中身なのかという議論になるが、どちらでもない。大事なのは"真ん中"」だという。インターネットを例に挙げ、「プロトコルの世界は面白くなかったが、Mosaic(Webブラウザ)で次から次へ情報が出てくることがすごい面白さを予感させた」。これによってその世界に引き込まれる人がいる、だからそこに情報を入れる人がいる、放っておいても人・情報が集まり技術が出てくる、と述べた。

今、単に情報の入手なら驚くほどの量が可能だが、「人に情報をプッシュするだけでは経済にならない。人の"行動"にリーチするところまでICTが届けば、そこに金を出そうとする顔ぶれが変わる」とし、情報と人がリアル空間で結びつくことの意義と、そのしくみが持つべき特性についてまとめた。……パネルディスカッションは次ページ

情報空間で街の付加価値を高め、経済効果を狙う(上)/六本木の3つの美術館を情報空間上で結ぶ「空中美術館」(下)

その他の取り組み案。東京・秋葉原は「来る人のリテラシーが高く何でもできそうだが、どれも警察に文句を言われそうで」実現できなかった