最後に日本でのSOA普及について、伺わせてください。ご存じの通り、日本ではSOAの普及が非常に遅れていると言われています。また、成功したという事例を見ても、単にBPELで開発した、ESBでアプリケーションどうしを連携させた、などに留まっています。こういった日本の現状、そして今後について、思うところをお聞かせください。

まず、日本市場はSOAガバナンスに関して、パーフェクトなターゲットだと言えます。

日本人のテクノロジに関する先進性は、自然の世界とテクノロジを非常にうまくリンクできているところに特徴があると思っています。例を挙げると、全世界規模での気候を予測するスーパーコンピューティング技術 - これなどは自然環境をコンピュータに取り込んだ最たるものですよね。ほかにも、ソニーのAIBO、たまごっち、任天堂のWiiコントローラ…こういった製品は、北米では決して発明されないと思います。「マジンガーZ」のような"Half-Human, Half-Machine"のようなキャラクターも、日本だからこそ生まれたのではないでしょうか。つまり昔から、自然環境とテクノロジの境界線上にあまり障害がなく、テクノロジをライフスタイルに取り込みやすいと人種だと言えるでしょう。

SOAについて話を戻すと、日本人のそういった特性を生かして、SOAガバナンスを純粋な形で取り込むことが可能だと考えています。ヘテロジニアスな環境が普通である米国では、どうしても個々の自己主張が強くなりがちですが、日本人には他者を気遣うという文化がしっかりと根付いている。企業内においても周囲とうまく共存し、コンセンサスを得ることが強く求められます。これはSOAガバナンスに非常に適した考え方です。単にツールを導入するという形のSOAではなく、ガバナンスを中核としたSOAソリューションであれば、日本企業でも多くの成功事例が生まれると信じています。

インタビューを終えて

SOAガバナンスにおける世界屈指のトップエバンジェリストといえるミコ・マツムラ氏。ことガバナンスソリューションに関してはOEM提供しているSOAベンダが多い中、同氏をエグゼクティブに置くSoftware AGでは「ガバナンスこそがSOAの中核」と位置づけており、業界内でもユニークな存在である。

トップダウンか、ボトムアップか -- SOAに限らずITシステムの導入/リプレースを議論する際、よく登場するフレーズだが、結局のところ、そのどちらであっても組織内から100%の合意が得られることはまずあり得ない。トップから押しつけられた、下の人間が勝手にやった、といった類の言い訳はいつの時代、どこの組織、どのソリューションを使っていても起こるものである。

だが100%は無理でも、少なからず多くの人々が気持ちよく使えるITシステムがあるとしたら、それはやはり、ある一定のルールの下で運営されていることが条件になるだろう。そしてそのルールは、時代と組織に合わせて柔軟な変更が可能であることも求められる。SOAガバナンスの基本はそこにある。

ミコ・マツムラ氏はインタビュー中、何度も"coexistent(共存している)"という単語を繰り返し使った。ITも、人も、一度同じ組織に含められた以上は、相性や感情はともかく「共存」していかなくてはならない。ルールの策定作業は、その重要な第一歩である。日本企業のSOA導入が進まないと言われることが多い中、これまで焦点が当たることが少なかったガバナンスの面から見直してみることで、新たな普及の糸口が見つかるかもしれない。