米Oracle主催の「Oracle OpenWorld 2008」が今年も米カリフォルニア州サンフランシスコで開催されている。初日にあたる9月22日(現地時間)には同社社長Charles Phillips氏によるキーノートスピーチが行われ、世界最大級のビジネス・ソフトウェア・イベントが幕を開けた。

Oracle OpenWorldが過去最大規模のイベントとなったワケ

キーノートに登壇した米Oracle社長のCharles Phillips氏

参加者が4万人超と過去最大規模となった今回のOracle OpenWorldだが、その理由を探ると最近のOracleのビジネス戦略に突き当たる。ここ数年のOracleは自身のソリューションや技術ベースの強化のため、競合他社を含む数多くのIT企業買収を繰り返している。買収した企業のユーザーや開発者のそのまま取り込んだことで、結果的に年々イベントの規模は急拡大、参加者数の記録を毎年更新している状態だ。

経緯をさかのぼると、すべては2004年12月の米PeopleSoft買収から始まった。Oracleが獲得を狙っていた米J.D. EdwardsをPeopleSoftが買収したことで事態は紛糾、同社はJ.D. Edwardsを買収したPeopleSoftごと吸収する作戦に出た。半年以上に及ぶ敵対的TOBの末、Oracleは103億ドルでPeopleSoft買収に成功した。買収後のOracleはPeopleSoftやJ.D. Edwardsの既存顧客に対してアップグレードパスを保証、顧客保護に努めるとともに、ミドルウェアを駆使して製品同士を連携させるビジネス戦略を推進した。すべてを自社製品で揃えて他社製品との連携に消極的だったそれまでのOracleだが、この方針転換が現在のOracleの基礎となった。

Oracle OpenWorld冒頭のキーノートでPhillips氏は「Complete, Open, Integrated(完全で、オープンで、統合されている)」と3つのキーワードでOracleの戦略を説明した。顧客が必要とするソリューションをすべて取りそろえており、それらはプロプライエタリではなくオープンなスタンダードに則って他社製品との連携も容易で、しかも必要に応じてシステムとして完全な形で提供されるというものだ。足りないソリューションがあれば最適なベンダーを買収して技術や顧客ベースを吸収し、さらにオープンな形で発展させることでOracleユーザーと買収先のユーザーの両方にとってメリットとなる手段を模索する。こうしたアイデアに基づいた積極的な買収戦略が現在のOracleの原動力となっている。

Phillips氏は「これからもずっと買収等を通して新機能追加やイノベーション(革新)を続けていく。PeopleSoft買収からおよそ3年半で50の企業を買収しており、すでに従業員数も当時の4万人から8万5,000人まで急増している。非常に複雑で分散化されたシステム環境をオープン技術で進化させることでインテグレート(統合)を可能にし、環境を整えることが最終的にすべてのユーザーにとってのメリットになる」と述べ、拡大戦略が結果としてユーザーとOracleの両者にとってのメリットになると自信を見せる。

買収に次ぐ買収で顧客ベース拡大や技術革新を続けてきたOracle。去年末に開催されたOracle OpenWorld 2007からは新たに8つのニューカマーが登場した

買収に次ぐ買収の先にあるもの

買収戦略だけでなく、それを通して市場リーダー、すなわち市場シェアNo.1を目指すのもOracleの戦略の一環だ。たとえば各分野で著名な企業を買収することで製品ポートフォリオと顧客シェアを拡大し、結果としてNo.1になるという構図だ。Phillips氏はアプリケーションの各分野におけるトップ企業のうちの何社がOracle製品を導入しているかをスライドで示し、その浸透力や製品ポートフォリオの充実ぶりを強調する。また同氏は史上最大数の金メダルを獲得した水泳界のヒーローMichael Phelps氏を壇上に招き、Phelps氏の活躍を称えるとともに、今後のOracleの発展と重ね合わせる形で実績や将来の発展に期待を寄せた。

現在のOracleの製品ポートフォリオ。「データベース」「ミドルウェア」「アプリケーション」の3つのカテゴリを中心にビジネス・ソフトウェアのあらゆる分野をカバーする

幅広い業界をカバーするだけでなく、それぞれの分野でNo.1シェアの業界リーダーを狙うのもまたOracleの目標

史上最多となる14個の金メダルを獲得した水泳界の新鋭マイケル・フェルプス(Michael Phelps)氏がPhillips氏のキーノートに登場。その理由は……

8つの分野で世界記録を持つPhelps氏とOracleのビジネス・アプリケーション業界での実績を並べたところ。まだ23歳のメダリストはこれからも偉大な記録を作り続けることになるが、Oracleもまた買収等を介して拡大を続けていくことになるだろう

このほか、実例を交えて製品ポートフォリオの充実の過程が紹介されている。たとえば通信業界向けに特化したソリューションの場合、2004年以前のOracleはERPに紐付けされた基本的なアプリケーション製品しかラインナップに抱えていなかった。ところが何段階かの業界リーダー企業の買収を繰り返したことで製品ポートフォリオは大幅に強化され、いまでは必要な機能の多くが提供されるまでに至っている。一方でSAPの対応状況がまだ不足していることも指摘、ライバルへの牽制も忘れていない。

業界別アプリケーションの導入状況。業界大手を中心に大きなシェアを獲得していることがわかる

PeopleSoftに始まる一連の買収戦略を開始する前のTelco業界におけるOracleの製品ポートフォリオ。赤い部分がOracleの持つ製品だ

買収戦略を続けることで、それぞれのソリューションに強みを持つ業界リーダーたちを買収し、Oracleの製品ポートフォリオを強化する

その結果、今日のOracleはTelco業界をはじめ多くの分野で十分な製品ポートフォリオを持ち、顧客のさまざまな要望に耐えられるようになったというのがPhillips氏の考えだ

Oracleから見たTelco業界におけるSAP。製品ポートフォリオでライバルに勝るというのが同社の主張だ

買収によるポートフォリオの拡充だけでなく、インテグレーションを考慮した製品強化やソリューションの提供も前述Phillips氏の3つの戦略の柱のひとつだ。業界や用途別に製品同士のインテグレーションを容易にするソリューションパックの「Application Integration Architecture(AIA)」はこの最新の成果だといえる。壇上ではオランダ最大手の通信企業KPNの事例を紹介、Siebelのコールセンター向けCRMアプリケーションとOracleのERPを組み合わせ、AIAでシステム構築が行われている。これにより、インテグレーションにかかる時間やコストが改善され、従来より30%ほどの向上が見込まれたという。

近年Oracleが力を入れているApplication Integration Architecture(AIA)。一種の業界別ソリューションパックで、OracleやNon-Oracle製品を簡単に組み合わせてシステムを構築できる仕組みを提供する