韓国では、VoIPの番号移動制、WiBroの音声通話機能追加など、通信業界の環境を変えるような関連政策に関し、今後本格的な検討がなされていくこととなった。

IT分野の問題解決は通信業界から

韓国政府の情報通信委員会のチェ・シジュン委員長は、基幹通信事業者8社(KT、Hanaro Telecom、LG DACOM、LG Powercom、SK Telecom、KTF、LG Telecom、Onse Telecom)のCEOと会談を行った。

今回会談を開催したのは、IT分野における雇用創出や中小企業の倒産防止といった問題を解決したいとの思いが根底にある。それには「IT事業の連鎖の最上位にある」(放送通信委員会)通信業者による投資が必須となるが、最近通信業者は熾烈なマーケティング競争を繰り広げており、そのためになかなか大規模投資にいたらない状況に陥っている。このままではいずれ事業者の体力が消耗して、関連業者や消費者の利益にもならないということで、政府が状況打破に乗り出した形だ。

無線通信会社と有線通信会社別の投資額とマーケティング額の比較。いずれも投資額の半分以上をマーケティング費用が占めており、とくに無線業者は投資額をマーケティング費用が大きく上回っている(放送通信委員会資料)

実現に近づいた、VoIPの番号移動制

通信関連の課題の1つとして挙がっているのが、VoIPによる緊急電話対策だ。VoIPは現在「070」という専用の局番が割り当てられており、電話の発着信や市内外との通話も可能で、専用の電話機なども多く出ている。

ただし、警察や救急車などの緊急電話への発信はいまだ不可能だ。VoIPでは発信者の正確な位置把握が難しいなどといったことがその理由。こうしたことが未整備であることから、自宅の固定電話の番号をVoIP用電話番号として利用できる番号移動制も、導入が遅れている。VoIP事業に注力するLG DACOMやLG Powercomでは、これを早急に実現することを要求しており、同委員会でもこれに応える形で「早速(この問題を)まとめ、早い時期に実現する」と述べている。

WiBroで通話が可能になる可能性

VoIP問題と同じく同委員会が「早めに検討する」との方針を明らかにしたのが、WiBro(韓国版のMobile WiMAXサービス)の問題だ。

WiBroは韓国で2年以上サービスしてきたものの、加入者は約20万人と不振だ。WiBroの中継器などを供給する中小企業も「(2008年)第4四半期は、大部分が赤字だった」(放送通信委員会)という。こうした状況を打破するためにも、WiBro機能をグレードアップする目的で、音声通話機能搭載ということが以前から叫ばれていた。

ただし同委員会でも、すぐに音声機能導入とはいかず、あくまで音声機能を導入の可否を検討するという立場だ。WiBroに音声通話機能を搭載すれば、携帯電話をはじめとした既存の無線事業者との衝突が予想される。何より利用者がそれほど多くないことも、こうした決断を遅らせている要因の1つであり、今後慎重な検討が必要となりそうだ。

コンテンツ確保へのニーズ高まる

IPTVでは、KTやHanaro Telecomから、コンテンツ確保に関する意見が出された。KTはIPTV用コンテンツを円滑に確保できるよう、政府による仲介を要求しているほか、Hanaro Telecomでは地上波テレビ番組をIPTVで放送することに関し、番組を送信することが義務化されているKBSやEBSの他に、MBCやSBSといた地上波全局に対してこれを適用すべきと述べた。

コンテンツはIPTVだけでなく、通信事業全体にとって大事な問題となってくるが、これに関しては「コンテンツ活性化支援専担班」の結成を決定。成長見込みのあるコンテンツ産業に対する、通信会社の投資を誘導していく方針を固めた。

有意義だったトップ会談

通信会社の経営を圧迫するマーケティング費用に関しては、同委員会では「直接規制することは避ける」とし、あくまで通信会社による自律的な統制に任せるとしている。ただし、「マーケティング費支出現況点検」などと銘打ってモニタリングを強化していく方針を明らかにした。さらに、放送と通信の融合が盛んな状況下において、適切な制度を導入していけるよう「流通構造分析等政策研究」といった会も実施する。

一方、中小企業問題に関しては、大企業とともに成長していくことが必要との見方から、こちらも規制などはせず、あくまで通信会社の自律的な取引環境の改善に任せるとしている。ただし、「通信社-中小企業間取引関係実態点検」は実施するとしている。

今回の席では、発言権のあるトップが一堂に会したことにより、実務的な話し合いが行われた一方、同委員会でも現時点での問題に取り組むための柔軟な姿勢を見せたという意味で、有意義だったといえる。マーケティング費用と中小企業の問題は今後も付いて回るものではあるが、今回会談されたことが1つでも多く実行されることによる改善が期待される。