木達: Firefox 3ではマイクロフォーマットに対応したJavaScript APIが実装されたものの、マイクロフォーマットを利用するためのユーザーインタフェースをネイティブで備えたWebブラウザはまだ存在しない。この状況についてはどう思うか?

Allsopp: Firefox 3がアナウンスされた当初、トッププライオリティの一つに、マイクロフォーマット対応コンテンツへアクセスするためのユーザーインタフェースがあった。しかし数ヶ月前、そのようなユーザー体験をビルトインせずに出荷するとのアナウンスがなされた。マイクロフォーマットを推進している人々にとっては残念な知らせだったが、しかしそれをいかに「適切に」実装するかが肝要と考える。ブラウザにとって、マイクロフォーマット対応はまったく新しい機能である。それを備えたブラウザは、「ブラウザ2.0」と言って良いだろう。新機能の搭載に慎重になるのは、Firefoxにとって決して悪いことではない。新たな機能を提供したところで、もし人々がそれを使わなかったり、不満を募らせたりするとしたら、長期的には不利益となるはずだ。準備のできていないうちに、新機能を世に出すのは必ずしも良いことではない、と思う。新しいユーザー体験をもたらすものに関しては特にそうで、ユーザーの側でも一定の準備をする必要がある。現状では、たとえば特定のページだけで所在地情報が取り出せ、他のページでは取り出せないというのは混乱のもとになり得る。よりマイクロフォーマット対応コンテンツが増えれば、混乱のリスクは減るだろう……しかしとにかく、Firefox 3でJavaScript APIが搭載されたのは重要なことだ。

木達: Webブラウザのサポートに関連して、Internet Explorer 8(IE8)についてお聞きしたい。同ブラウザはBeta版で、hAtomマイクロフォーマットによく似たWebSlicesを実装している。

Allsopp: とても勇気づけられることだね。これはWebブラウザのもつ可能性に対してユーザーが抱く期待に、変革をもたらすものだ。一般的なWebブラウザが現在何を行っているか、考えてみて欲しい。それは単にスクリーンに印刷をする、プリンターのようなもので、言ってみれば「ブラウザ 1.0」。「ブラウザ 2.0」は、より深層にある利用可能な情報をユーザーに提示し、それを使って実現できることをも提示する。たとえばアドレスブックに登録したり、地図上に所在地を表示したり、フィードを登録するといったことをね。より豊かで洗練された方法で実現可能なことに、(WebSlicesをきっかけとして)ユーザーが気づいたり考えたりするのは、マイクロフォーマットにとって好材料だ。

木達: マイクロフォーマットは便利なばかりでなく、アクセシビリティや国際化/地域化といった側面で、いくつかの課題があることも知られている。そうした課題については、どう考えているのか?

Allsopp: abbrデザインパターンの問題点(注: abbr要素のtitle属性に、機械が読み取るための情報を記述する手法をabbrデザインパターンと呼ぶが、これは視覚障害者などの利用する音声読み上げ環境で問題を引き起こす懸念が取りざたされている点)は有名だし、他にもいくつか課題があることは承知している。ことアクセシビリティに関しては、過去数ヶ月にわたり、Web開発コミュニティの一部で感情的な議論まで起きたしね。こうした課題、問題点を認識することは重要だと思う。そしてまた、問題が実際にどれほど影響を及ぼすものなのかを知ることも重要だ。制約の大きな、(X)HTMLのような言語を使ううえでは特にね。既存のコンテンツやブラウザを壊すこと無く、(X)HTML仕様に新たな意味や語彙を加えることは、(X)HTMLの限界を超えようとする試みでもある。abbr要素を使って、ある情報を表現しようと語彙を拡張した途端、音声読み上げ環境で問題が起きたのは、つまり(X)HTMLの限界を突破しようとする際のせめぎ合いから問題が生じたわけだ。私たちが次のステップに進むうえで、大いなる挑戦となるだろう。