18日に開かれたIT検証産業協会(IVIA)の定時総会で、経済産業省 情報処理振興課の渡辺琢也氏と情報処理推進機構(IPA)ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)の渡辺登氏がそれぞれ講演。ソフトウェアの品質管理・検証や組込みシステムの開発を手がける企業経営層に向けて、行政の立場から、国内ソフトウェア産業が抱える課題に対する施策の説明や課題解決に向けた提案を行った。

経済産業省 情報処理振興課 係長渡辺琢也氏

はじめに登壇した経済産業省の渡辺氏は、まず、世界のIT産業の動向として、各国のIT市場規模の伸び率と構成比を紹介。2001年以降、中国とインドが大きく成長するなかで(2001~2005年の伸び率は中国が約600%、インドが約400%。2005~2009年は中国が約500%、インドが約250%)、国内市場は世界2位の市場からローカル市場へと移行する(2001年の構成比11.7%から、2015年に8.2%の見通し)との調査予測を示した。また、収益性についても、主要な情報サービス・ソフトウェア企業の売上高と営業利益率を比較した図を示し、インドIT企業が売上高の伸び率で30~40%、欧米IT企業が営業利益率で25~40%であるのに対し、国内では売上高伸び率、営業利益率ともに10%程度に留まっていることを示した。

世界のIT市場規模の伸び率と構成比。インドと中国が拡大する一方、日本の地位は低下

IT産業の収益性が向上しない要因を分析した各種資料。日本は受託開発と作り込み率の高さが際だつ

そのうえで、国内IT産業の収益性向上を阻害している要因として、受託開発中心の体質と、多重下請け構造という問題点があることをあらためて指摘。実際、受注ソフトウェア開発の比率では、米国が34%であるのに対し、日本は46%を占めており、また、ソフトウェアの作り込み比率についても、SCM(Supply Chain Management)ソフトで米国7.5%、日本40.0%、CRMソフトで米国22.1%、日本31.1%という調査結果があることを紹介した。

続いて、こうした課題に対して、経済産業省が現在取り組んでいる施策を説明。主要な施策として、中小規模企業を中心とした優遇税制(情報基盤強化税制、中小企業投資促進税制)の延長・拡充や、SaaS(Software as a Service)/ASPの普及促進を挙げた。特に、新たな動きとして、情報基盤強化税制が、(1)取得価額の引き下げ(300万円以上から70万円以上)、(2)対象となるソフトウェアの追加(エンタープライズ・サービス・バス製品などの「部門間・企業間で分断されている情報システムを連携するソフトウェア」が新たに追加)、(3)SaaS・ASP事業者が適用対象になることの明確化の3点で拡充されたことを紹介した。また、SaaSについては、中小企業50万社以上への普及を目指して、財務会計から電子申請までを一貫して行えることを旨とする「SaaSプラットフォーム事業」(予算18億円)に取り組んでいることを明かした。

中小規模企業が利用するソフトウェアの調査。小規模企業で、IT格差が拡大しているという

他の主要な施策としては、情報システムの信頼性向上を図るための取引慣行や契約適正化に取り組んでいることを説明。これは具体的には、東証のシステム・トラブルに起因して策定されたガイドライン(2006年6月)や、そのガイドラインに基づいた「情報システム・モデル取引・契約書」の策定(2007年1月)、全日空のシステム障害を受けて実施された緊急点検(2007年6~8月)などを指す。今後は、モデル取引・契約書の追補・拡充やその資格制度の創設を検討するほか、情報システムの品質を向上させるための「信頼性向上ガイドライン」や「信頼性評価指標」などの見直し・拡充に着手する予定という。

そのほか、ソフトウェアの不具合や品質向上という課題については、製品出荷後の不具合製品発生率やその原因を調査した結果を示しながら、IPA/SECを中心に、産官学が連携して、ソフトウェア開発力の強化や評価ツールの作成、標準化の推進に取り組んでいることを説明した。なかでも、現在プログラム行数が500~1000万行に達している自動車組込みOSについては、トヨタ、日産、ホンダ、デンソー、ケーヒンなどの自動車メーカー、部品メーカーらが協力して、各事業者間が共通に利用できる標準モジュール(ミドルウェア)の開発プロジェクト「JasPar」が進められていることを紹介した。

品質問題の原因を示した経済産業省の調査。製品出荷後の品質問題は4割強がソフトウェアの不具合に起因する

情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター 渡辺登氏

続いて、登壇したSECの渡辺氏は、IPAが策定した組込みスキル標準「ETSS」に触れながら、ソフトウェア開発における現場からの意見や、スキル・マネジメントのあり方などを提案した。同氏は、沖通信システムでソフトウェア・エンジニアとしても活動する。

同氏はまず、ソフトウェアの品質向上に大きくかかわる、テスト・エンジニアの現状を紹介。経済産業省が実施している組込ソフトウェア産業実態調査では、2006~2008年の間で、人数、不足率ともに改善しているものの、アウトソーシングの比重が増しており、高度IT人材の確保や育成の点では課題も少なくないとした。例えば、「これまでに就いた職種と、将来就きたい職種」についての調査結果では、テストエンジニアを経験した数は最も多いにもかかわらず、将来就きたい職業としては最低となっている。

プロジェクト・メンバーの職種構成。テスト・エンジニアの数は増加

エンジニアの職業意識。テスト・エンジニアの人気は最低という結果に

同氏はそれを踏まえて、製品開発の現場で、スキルをマネジメントすることの重要性を強調。「製品開発がスピード化し、短期的な成果が求められるなか、現場のエンジニアのモチベーションは下がっているのが現状。P.F.ドラッガーが指摘するように、競争力の要因となるのは、教育と訓練を受けた人材であり、技術のマネジメントが重要な意味を持つ。開発力強化には、個人のスキルを組織のスキルとして継承・共有していくことが必要」と訴えた。例えば、マネジメントの枠組みとして、PMBOKやCMMI、TQMなどの方法論を経営層が率先して採用することや、PMO(Project Management Office)を設置して、プロジェクトの実行や評価をサポートすることなどを挙げた。