人民元上昇すれば、抵コストでの経営不可能に

用友、金蝶集団、あるいは東軟集団といった中国の大手ソフトウェア企業がなぜ相次いで、製品志向から脱却し、サービス志向への経営戦略転換を図るのか。その背景にはいったい何があるのだろうか。

用友の董事長兼総裁の王氏は、以下のように述べている。

「ユーザーにソフトウェアやサービスを提供しているが、パートナーと協力する中で、ソリューション・プロバイディングを含む製品志向型経営が、最早ユーザーニーズに対応できなくなってきたと実感している。ユーザーは、我々により持続的にサービスを提供できる能力を求めている。私たちはより良質のサービスを中国のユーザーに提供しなければならないし、ビジネスモデルも変革しなければならない。これこそ用友が顧客志向型経営という新戦略を打ち出した原因だ」。

また金蝶集団副総裁の陳登坤氏は、「人民元切上げという大きな流れの中にいる以上、中国のソフトウェア企業がインドのソフトウェア企業のようにアウトソーシング志向の道を歩むことができるわけがない」として、為替変動が予想されることの影響を指摘している。

陳氏はさらに、以下のように人件費増加の影響についても指摘している。

「近年、中国のソフトウェア企業は、人件費の上昇というトレンドに直面している。2005年から2007年までの3年間に、金蝶集団の社員数は平均で毎年13%増加してきた。だが、人件費の対前年比の増加率は、2006年に15%、2007年には27%に達し、社員数の増加率より高い。つまり、一人当たりの人件費コストが急増してきているのだ。製品志向企業からサービス志向企業への戦略転換を実行すれば、社員総数の増加率や一人当たり人件費コストの増加率を抑制することができる。何故ならば、サービスに比べ、ソフトウェア販売、とくに直販で売上高を高めていこうとすれば、人海戦術を頼るほか方法がないからだ」。

物価上昇や新労働契約法も大きな要因

業界通の意見も聞いておこう。投資コンサルティングを行う天相投資顧問網のアナリストである劉暁東氏は、人件費の増加について、CPI(消費者物価指数)の上昇や新労働契約法などが原因と述べている。

「高いレベルで推移しているCPIや新たな労働契約法の登場などが、ソフトウェア企業に人件費の上昇をもたらしている。用友を例にすれば、2008年の社員一人当たりの平均給与は前年比で8%から10%増加すると予測されている。通常、ソフトウェア企業では人件費が総コストの50%以上を占める。このため、ソフトウェア企業は人件費の上昇により大きな圧力がかかっているのだ」。

以上3氏の発言からも分かるように、中国のソフトウェア企業は人民元レートの切上げと人件費の上昇という厳しい現実に直面している。その対応策として、用友は製品志向経営型から顧客志向型経営へ転換しようとし、金蝶集団は製品志向型企業からサービス志向企業へ転換しようとしているわけである。

実際の戦略転換はすでに各社で始まっている。これまでみてきた事例や業界筋の分析からすると、中国のソフトウェア企業が今後、製品志向からサービス志向へという経営転換だけではなく、人民元レートの切上げ、国内サービス需要の増加などの要因により、アウトソーシング志向から内需志向へとシフトする可能性も十分あると思われる。今後の展開に、大いに注目したい。