米カリフォルニア州バーリンゲームで「Where 2.0 Conference」が始まった。Webに地理情報を活用する、いわゆるGeoweb(Geospatial-web)を主なテーマにしたカンファレンスである。
マップとWebの融合というと、最初は場所探しにインターネットの検索力を活かすことに始まり、続いてAjaxの導入によって地図を広げるようなマップ表示がWebでも可能になった。一部のハッカーがアパート情報などのネットサービスのデータをWebマップ上に表示して見せると、Googleが正式にマップサービスへのアクセスを可能にするAPIを公開。Webマップがマッシュアップを促進させる原動力となった。その後、ローカル検索との融合が強まり、GoogleのMy Mapsのようにマップにユーザー個々の情報が反映させられるようになると、それらを友人などと共有できるようになってきた。パソコン画面からワンクリックで世界中を訪れられるのがWebマップサービスやマップソフトの最大の魅力だが、パーソナル化が進むにつれてユーザー個々を取り巻く実世界が仮想的なマップ上に反映・再現される面白さが加わろうとしている。
今年のテーマは「ユーザーのロケーション」
今年のWhere 2.0の大きなテーマはユーザーのロケーションだ。マップサービスにおいてローカル検索が重視されるのは、ユーザーの行動範囲に近いほど、より多くの情報が求められるからである。ユーザーが映画館を調べる場合、その場所だけではなく、上映時間も求めている可能性が高い。検索結果にチケットサービスの広告を表示すれば、より高い効果が期待できるだけではなく、新たなビジネスチャンスにつながる。これまではユーザーがマップサービスで居住地域に設定している場所やマップ検索をした場所がローカル検索の主な対象だったが、GPSなどを通じてユーザーが検索を行っている場所を常に特定し、ユーザーの行動パターンも把握できれば、ユーザーや広告主がロケーションから得られるメリットはさらに高まるだろう。
ロケーションはユーザーの現在地だけではない。例えば写真やビデオに撮影した場所の情報が記録されれば、それらが共有サービスで公開された際に場所による検索や分類が可能になり、クラウドに集まる情報の有用性が高まる。ただし写真を整理する際に、1枚ずつ手作業で位置情報タグを加えていては、面倒なうえに間違いが起こりえる。カメラのシャッターを切るだけで、自動的に位置情報が写真に埋め込まれるようなシンプルさが望ましい。
そこで今年のWhere 2.0の議論には、位置情報タグの埋め込みの普及・拡大、ロケーションの特定方法、ユーザーのロケーションを活かしたWebサービス展開、パーソナル化が進むGeowebを利用した新たなビジネス機会、プライバシー侵害などロケーション特定に関連する問題などが含まれる見通しだ。
Where 2.0会場ではGSMおよびBluetoothから参加者の行動をトラッキングする実験が行われていた。セッションの間に「個人を特定できる情報収集ではない」という説明。ロケーション把握に伴うプライバシー侵害の可能性も今回のトピックのひとつだ |
ジオグラフィは世界をデータ化するツール
オープニングには、Where 2.0の常連となっているGoogleのJohn Hanke氏が登場した。同氏はGoogle Earthの土台となった3Dマッピング技術を開発したKeyholeの共同創設者であり、現在Google MapsとGoogle Earthの開発を統括・管理している。
昨年のWhere 2.0でGoogleは、「Street View」と「Mapplets」を発表した。今年の発表はふたつ。まず「GeoSearch API」のリリースだ。これはgeoindexを公開するものとなる。例えば今年のWhere 2.0はサンフランシスコ空港近くのマリオット・ホテルを会場としている。同ホテルは、ベイ沿いのジョギングコースと空港の滑走路を一望できることで好まれているのだが、これまでのGoogle Search APIでは、それらを利用しているサードパーティのサービスを通じて、ユーザーがアクセスできるのは有名ホテルまでだった。マリオット・ホテルの最大の魅力をユーザーに伝えられないのだ。それがGeoSearch APIによって、見学ポイントやジョギングコースなど幅広い地理データを反映させられるようになる。Hanke氏によると、geoindexは昨年のWhere 2.0からこれまでにおよそ300%増という目覚ましいペースで増加しているそうだ。
Where 2.0会場のマリオットホテルは周囲が写真のような、飛行機の離着陸を眺めながら走れるジョギングコースになっている。GeoIndexの公開によって、このような地理的な特徴に幅広くユーザーがアクセスできるサービスを、サードパーティが提供できる |
Hanke氏はまた、地理空間ソフトウエアプラットフォームを手がけるESRIとの提携を発表した。ESRIのフラッグシップ製品である「ArcGIS Server」の9.3リリースにおいて、サードパーティからのデータがKML(Keyhole Markup Language)とGeoRSSでパブリッシュされるようになる。KMLは今年4月に、国際コンソーシアムOpen Geospatial Consortium(OGC)からOGC KML Encoding Standardの承認を得ており、Virtual Earthでも表示サポートされている。ESRIとの提携で、KMLを軸とした空間データの相互運用の流れがさらに大きくなりそうだ。
Hanke氏は「ジオグラフィは、世界をデータとして見るうえで有用なレンズだ」と述べていた。この言葉は共感を得たようで、その後の講演やセッションでも度々"レンズ"という表現が使われていた。ちなみにレンズという表現に続くHanke氏のマップ観は、「ジオグラフィとマップは、われわれが探している情報を整理するために役立つ組み合わせである。さらに適切なユーザーインタフェースを通じてマッピングデータが収集・表示されれば、われわれが情報の理解を手助けするコンテクストが加わる」だった。