保護者不在で子どもを守れるのか

さらに目的である「子どもを守るという視点に十分な配慮がされているか」という点にも「かなりの懸念を覚えている」(同)という。そもそも、法律案の作成過程において、保護者の意見聴取が後回しになっており、保護者の意見が十分に反映されていないと指摘する。

全国高等学校PTA連合会の高橋正夫会長

これには会見に参加した全国高等学校PTA連合会(高P連)の高橋正夫会長も同意している。携帯電話向けのフィルタリング義務化についても、「昨年12月に総務省の会合で初めてヒアリングを受けた」(高橋会長)状況で、国とIT企業だけで話を進めていたとして「子どもを無視するのは勘弁してもらいたい」と憤る。

別所氏によれば、ある私学学校の校長は今回の法律案について「政府が家の門限を5時にしろと一方的にいっているようなもの」と話していたとのことで、「(保護者や学校が)意見を聞く機会を与えられていない」(同)と問題点を挙げる。

保護者にとっては、この法律案によって、自分の子どもに対してどんなサイトを見せるか、どういった情報に触れさせるかといった決定権が奪われると別所氏。「最終的な決定権は誰にあるのか」と別所氏は強調する。

「本当に(この法律案に)実効性があるのか。狙っているところ(子どもを守ること)に実効性があるのならまだ説得力があるが、実効性があるとは思えない」(別所氏)。

青少年ネット規制法案が不況を招く?

さらに別所氏は建築基準法・貸金業の規制等に関する法律(貸金業法)・金融商品取引法の改正による「3K不況」を例に挙げ、政府による規制が「ごく一部で発生している問題であらゆる関連事業者にしわ寄せを作った」ために不況を招いていると指摘し、今回の法律案が同様の不況を招きかねないと懸念を示す。

現在、18才未満の「98%近くが携帯電話を使っている」(高橋会長)状況で、出会い系サイト経由などで子どもが被害者になる例が増えている。しかし別所氏は、「犯罪白書などを見ると、インターネットの普及前後で子どもが事件の被害者になる数は変わっていない」と指摘。

別所氏は「インターネットはあくまで通信手段のひとつであり、その悪用を防ぐことと子どもの被害を減らすことの因果関係もはっきりしていない」と話す。その上で、啓発・啓蒙などによるリテラシーの向上によって、「時間はかかるかもしれないが、有害なものをふさいで見えないようにするよりも効果がある」(同)という。