IT業界には、コンテンツを無料でだましとろうという勢力がいる?

5人のパネリストの発言が一通り終わった段階で、コーディネーターを務める中央大学大学院の安念氏は、(1)何でもいいからネットで流せばうまくいくといったバラ色の議論がなぜ主流となったのか、(2)著作権者が悪いといった議論がなぜ横行しているのか、(3)ネット配信とマスメディアの関係は今後どうなるか、についての意見をパネリストに求めた。

中央大学法科大学院 教授で弁護士の安念潤司氏

これに対し、(1)の「なぜ何でもいいからネットで流せばうまくいくといったバラ色の議論が主流となったのか」について、慶應義塾大学大学院の岸氏が、「政府の無責任な予想のせい」と一刀両断。「政府が予想することはいつも当たらない」と笑わせた。

(2)の「なぜ著作権者が悪いといった議論が横行したのか」については、ホリプロの堀氏が、「著作権者は何か不透明な世界で法外な金儲けをしてしているのではないかとか、何であんな芸のない奴が金持ちになるのかとかいう意見に象徴される、実演家に対するリスペクトの低さが原因ではないか」と指摘した。

また、ドワンゴの川上氏は、(3)の「ネット配信とマスメディアの関係は今後どうなるか」について、「テレビ局のコンテンツを提供されても、ビジネススキームが提案できない」と現在の状況を説明。さらに、「IT業界には、"コンテンツはフリーであるべき"などと主張しながら、無料でだましとろうとしている人もいる」とショッキングな事実を述べ、「ネットで配信するコンテンツは、既存のテレビ番組と違ったものであるべき」と主張した。

人気コンテンツを買った子供は"負け組"?

砂川氏もまた、マスメディアの今後について、「テレビの視聴者の関心が地道な調査報道などに向かわなくなるのを恐れている。マスメディアには、社会を正していくという役割が今後も求められるべき」との意見を述べた。

その後も各パネリストからは、テレビなどのマスメディアとネットメディアの性格の違いを指摘する意見が相次いだ。

その中で岸氏は、「ネット単体でもうかる仕組みを構築するのは短期間では結論が出ない。欧米などでは、ネット世界での新たなビジネスモデルについて、さまざまな実験が行われており、日本もこうした動きを見習うべき」と述べた。

また川上氏も、「ユーザーの満足度というものが変わってきている。以前なら人気のCDやDVDを買った子供は仲間内でヒーローになれたが、現在ではこうした子供は"負け組"で、"勝ち組"は無料でこうしたコンテンツをコピーした子供になっている」と再びショッキングな事実を披露。

その上で、「著作権は英語で『コピーライト』というように、コピーに課金するシステムだが、このビジネスモデルはもう通用しないのではないか。海賊版の横行する中国で唯一事業が成り立っているコンテンツビジネスであるオンラインゲームのように、今後は"サーバー課金型"のようなビジネスモデルが求められるのではないか」と提言した。

シンポジウムの終わりでコーディネーターの安念氏は、「テレビ局のこれまでの成功体験があまりにも大きくて、テレビ局に頼ろうという気持ちがまだ残っている。ネットビジネスを展開する経営者は、この成功体験の大きさに引きずられず、新しいビジネスモデルを提案すべきではないか」と話し、シンポジウムの議論を総括した。