東京大学とマイクロソフトは30日、同大駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)において、共同開発した読解力育成ソフトウェア「MEET eJournalPlus」に関する説明会および同ソフトを使った公開デモ授業を行なった。

MEET eJournalPlusは、「文章を批判的に読み解き、新しい知識を作り出すことを支援するソフト」(望月俊男 東大客員准教授)、「アノテーションなどのインタラクティブな機能を実装した世界初のソフト」(マイクロソフト公共インダストリー統括本部長 大井川和彦執行役常務)。その開発背景には、日本人の読解力の低下があるという。PISA(OECD生徒の学習到達度調査)2003年調査によると、日本の高校1年生の読解力は14位と国際的に平均程度の位置。この結果を受け東大は、調査年の生徒が大学生になる時期に合わせて、テキストの正確な理解や熟考する能力を養う教材としてMEET eJournalPlusを開発した。想定される利用シーンは、文献や論文の読み方を身に付けるための大学初年次教育、クリティカルシンキング(批判的思考力)のトレーニングのほか、法科大学院での判例研究といった専門分野で求められる高度な理解力の養成にも有効だという。

「MEET eJournalPlus」に期待される学習効果

「MEET eJournalPlus」の画面。論点マップは直感的な操作で作成できる

MEET eJournalPlusは、「.NET Framework 3.5」で開発されたタブレットPC用システム。クライアント「eJournalPlus Client」とサーバ「eJournalPlus Server」(Windows Server 2003+SQL Server)で構成されているが、クライアントのみでも動作する。

同ソフトの実際的な使用法については、公開デモ授業を通して紹介された。授業テーマは「映像と文献で見る学力論」。学力について考え、データと根拠に基づいた未来の教育をデザインするというもの。東大生16名が参加し、4人1グループの形式で行なわれた。まず各個人が、NHKアーカイブスの番組を検索・視聴できる「MEET Video Explorer」を使用してフィンランドと日本の学力の捉え方に関する映像を観賞、その後、基礎文献に目を通してから、タブレットPCとeJournalPlus Clientを使って論点をまとめる。同ソフトは、タッチペン操作で文章の論点や主題にマーキングしたり、原文を引用した論点マップを作成したりする機能を搭載している。学生たちは、文献中の文章をマップ作成エリアに札(ふだ)として貼り付けたり、色分けされた札の再配置や関連付けを行ない、筆者の意見や自分の意見を整理、視覚化していった(札の色から引用文か自分の意見かなどを判別できる)。議論する際はグループ内で論点マップを見せ合いながら、学力論争について批判的検討を加えていた。論点マップはeJournalPlus ServerやWindows Live Spaceを通じて共有でき、自分の考えに対してオンラインで意見を求めるといった使い方も可能とのことだ。

「MEET eJournalPlus」を利用した授業の様子。タブレットPCの直感的な操作性やXPSドキュメントのアノテーション機能を効果的に利用できるように作られている。学生からは概ね評価を得ているようだが、インタフェースについては不満の声も聞かれた

東京大学は現在、教育環境のICT化プロジェクト「TREE(Todai Redesigning Educational Eviroment)」を推進している。その中には、マイクロソフトによる寄附研究部門「MEET(マイクロソフト先進教育環境寄附研究部門)」が設置され、「東大の活動の重要な柱」(岡村定矩東大副学長)となっている。MEETでは、タブレットPCやモバイル端末を活用した教育環境の研究開発、評価などが行なわれており、MEET eJournalPlusやMEET Video Explorerの開発もその一環だ。研究成果はオープンにしていく予定もあり、今回紹介されたMEET eJournalPlusは、2008年3月にRC1をリリース、同年7月にはVer.1をフリーウェアとしてコミュニティベースで公開するという。

マイクロソフトは、MEETを通じて東大のTREEプロジェクトに参加。マイクロソフト公共インダストリー統括本部長 大井川和彦執行役常務が出席した

レノボ・ジャパン 石田聡子執行役員。同社はTREEプロジェクトに参画し、東大にタブレットPCを提供している