サンフランシスコで開催中のOracle OpenWorld 2007が2日目を迎えた朝、IBMがBIベンダのCognosを買収するというビッグニュースが飛び込んできた。ここ最近よく耳にする"業界再編"という言葉が、大手ベンダによる専門性の高い企業の買収合戦を指しているのなら、間違いなく"業界再編は急速に進んでいる"と言っていいだろう。M&Aを社の最重要戦略として位置づけているOracle、IBMのほか、Microsoft、Google、Yahoo!なども"業界再編"に積極的に乗り出している。
そうした中、買収企業数はそれほど多くないが、確実に買収結果を好業績につなげているのがHewlett-Packardだ。2006年のMercury Interactive、そして9月に買収が完了したOpswareなどの技術は、すでにHPの強力なポートフォリオとして、同社のソフトウェア競争力を高める役割を果たしている。
今後、IT業界はどのような方向に再編/統合されていくのか。また、世界最大のITベンダの1社であるHPが"業界再編"にどういった姿勢で臨んでいくのか。OOWの2日目、キーノートに登場したHP CEOのMark Hurd氏は「(IT企業の)統廃合は"妥当なペース"で進んでいくだろう」と予測する。
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「(Oracle CEOの)Larry Elisonとよくテニスをして負けるという話は本当? わざと負けているの?」という質問に、「私はわざと負けるほど寛大ではない。テニス歴はLarryより私のほうが長いんだが…」とやや悔しそう? |
同氏は「Oracleほどではないが、HPも多くの企業を買収してきた。だが大変なのは買収した企業の技術をHPの技術に統合していくプロセスだ。さまざまな技術をマージし、共通のインフラストラクチャを構築する作業は、想像するよりずっと大変だ」としながらも、顧客に対しては「どの製品にも共通する基盤やインタフェースを速やかに提供していかなければならない」と断言する。買収そのものよりも買収後のアーキテクチャ統合こそが重要だというわけだ。
HPはここ1、2年、ソフトウェア事業への注力を強めており、現在、ソフトウェア企業としては「世界第6位の地位にある」(Hurd氏)という。中でも同社が最も力を入れている分野がBTO(Business Technology Optimization: ビジネステクノロジの最適化)で、「我々はソフトウェアについてはカテゴリを絞って強化している。マネジメント(管理)分野に特化したソフトウェア戦略を採っているのだ」とHurd氏は強調する。たしかに管理ソリューションベンダとして評価が高かったMercuryやOpswareの買収は、同社にとって"無理のない買い物"といえるかもしれない。これらの企業の製品は「HP OpenView」など、HPが元からもつソリューションと組み合わせやすく、統合プロセスにそれほど時間をかける必要がないからだ。Hurd氏が同社のM&A戦略に関して「楽観的に思っている」と言い切るのも、あながち虚勢ではない。
業界全体の再編について、Hurd氏は「技術、情報、そしてキャッシュをもち、マネジメントがしっかりしている企業はやはり強い。今後、そういった一握りの企業が中心となって統廃合が進む」と分析、大手ベンダによる集約がさらに進み、サプライヤが絞られる傾向が続くとしている。ではその一握りの企業の中でさらにトップに君臨する企業はどこなのか。同氏は「(買収先企業との)コンビネーションを良い形で進められる会社がトップを取れるだろう」という。
このあたりの発言は"質実剛健"なHurd氏らしく、OracleのCharles Phillips氏と対照的で興味深い。Oracleは今回のOpenWorldで、AIA(Application Integrated Architecture)を前面に押し出している。2005年にPeopleSoftに対して実施したTOB以来、とりわけアプリケーションベンダを数多く買収してきたOracleだが、結果、それらのアーキテクチャ統合に相当な労力を要することになった。もっとも、そのプロセスすらAIAというビジネスとして展開できるところに同社の地力の強さがある。一方でHurd氏率いるHPの買収戦略はOracleのそれに見られるような派手さや強引さはないが、"良い形のコンビネーション"を着実に実現することを重視し、顧客の混乱を最小限にとどめている。
Hurd氏はOracleとの関係について「Oracleの顧客の多くがHPのプラットフォームを利用している。これからも戦略的なパートナーとして密なコラボレーションを図っていきたい」とする。だが、すでにPCベンダとしては世界No.1の座にあるHPが、今後ソフトウェアベンダとしてさらに上を狙うなら、Oracleとの関係も単なるコラボレーションパートナーから変化していくだろう。たとえば今回、OracleはOOWの目玉として仮想化環境"Oracle VM"を発表したが、HPは以前からVMwareによるサーバ/ストレージの仮想化を推進中だ。業界全体の再編とあわせ、両社の立ち位置がどのように変化していくのかにも注目したい。