ジャーナリズムには、分析力、文章力などが要求されるが、写真や動画の撮影は要求レベルが低く、質を無視すればカメラさえあれば誰もができる。NowPublicがカバーする"breaking news"といわれる速報ベースのニュースに読者が求めているのは、細かな部分の正確性よりもスピード。ニュースの80%を占めるといわれる速報ニュースは、市民ジャーナリストで十分という。実際、「世界で起こった重要な速報ニュースの80 - 85%は市民ジャーナリズムが最初に発信した」とBrody氏は述べる。

Brody氏は例として、オマーンで事件があったときにAssociated Pressは記者を送ることができず、NowPublicに支援を求めたという(現在、NowPublicはAssociated Pressと提携している)。このほかにも、絞首刑直前のサダム・フセイン元大統領の写真など、市民ジャーナリストが発信した例を挙げる。

もう1つの収益性について、Brody氏は「既存ニュースメディア企業は経済的に行き詰っている」と言う。これまで以上にコンテンツが求められる一方で、オンラインでは多くが無料となった。メディア企業はコスト削減を迫られており、ジャーナリストの数は削減傾向にある。

NowPublicはこれらの問題を解決するものだ。さらには、これを加速する現象として、携帯電話のカメラのように、端末は世界中に広がっている。これは、パワーの分散を意味する。

「世界最大のニュースエージェンシーを構築する」を目標に2年前に立ち上がったNowPublicは現在、世界145カ国以上、13万人以上の市民ジャーナリストネットワークを持つ。当初の目標どおり、世界最大となった。月間ユニークユーザー数は100万、毎日約600の記事がアップされているという。NowPublicではまた、携帯電話で撮った写真をアップロードするツールなど、写真/文章を容易に投稿できるツールを用意し、市民ジャーナリストを支援する。「ニュースメディアにおけるSkypeを目指す」とBrody氏は野心を見せる。

だが、既存メディアにはブランドという強みがある。これに対しBrody氏は、ニュースブランドへの価値は、年齢が下がるほど薄れ、18 - 35歳の読者はブランドを気にしていないと分析する。どの国でも例外なく、新聞の発行部数は、ブロードバンドがある程度普及すると下降線に入るという。また、Google Newsなど、読者がオンラインでニュースを入手する方法も変わりつつある。

「ブランド」と並び既存メディアの資産とされる「信頼性」について、Brody氏は、「米国の新聞の90%以上が訂正しない」と述べる。読者は速報ニュースに対し、正確性よりもニュースへ容易にアクセスできること、重要なトピックスをカバーしていること、どこでもニュースを入手できること、最新の情報であること、などのアクセスとスピードを望んでいるが、正確性、深い洞察、特定のジャーナリスト、そこでしか読めないコンテンツなど、質の面では要求レベルは低いとBrody氏は言う。さらに、SNSのトレンドに代表されるように、現在の読者は情報を与えられるという受け身の姿勢ではなく、参加したいと思っている。

NowPublicが本格的に市民ジャーナリズムを開花させる日が来るのだろうか? 今後に注目したい。