富士通 取締役上席常務 岡田晴基氏

富士通は、大規模災害などが起こったような非常事態に、取引先企業が事業を十分に継続していけるかどうかの能力の評価と、事業継続能力(BC: Business Continuity)の強化支援を行い、製品・サービスの安定的な供給能力を維持するための取り組みを強化する。また、富士通総研(FRI)は、サプライチェーンに不測の事態があった場合の課題と対策を評価する「サプライチェーン継続性評価サービス」を、2007年度下期から事業化する。

大地震、台風などの被害により、生産施設が破壊され、企業が事業を継続できなくなる事例がみられる。このような不測の事態に対応するための備えとして、事業継続計画(BCP: Business Continuity Plan)を策定しようとの機運が出始め、各企業単体でのBCPの策定が進んでいる状況だ。

しかし、同社によれば「サプライチェーンの脆弱性に対する対策は十分ではない。部材などの調達先が被災すれば、重要な部品などの供給が停止することもあり、それが、発注元の商品サービス停止に直結する事態も発生し得る」。サプライチェーンが複雑化、広範囲化することで、被害はさらに深刻化する可能性があり、「今後の事業継続計画の策定・マネジメントの実施には、サプライチェーン全体を含めた広範な検討・対応が求められる」としている。BCPを確固としたものにするには、部材の調達、購買のしくみを整備することが重要な要件となる。

FRI 副社長 平田宏通氏

部材調達の体制を強化、改善する活動には富士通自体が重点を置いてきた。同社は、2005年9月に事業継続マネジメント(BCM: Business Continuity Management)を推進するための専任組織を設置、主要な製品・サービスを中心にBCPを策定している。購買本部を核に、調達の方針、施策、実際の調達活動といった基本機能を集中させ、本体から、グループ会社までを統括するとともに、取引先との窓口を一本化した。他社では多くの場合、部門、関係会社ごとに個別に調達活動をしているという。集中調達をすることにより、富士通側は、グループ全体の物量の規模の大きさを背景とした、強い交渉力をもつことができる一方、「取引先も窓口一元化で、営業活動の効率化、機動的な情報入手などの利点がある」(同社)。

同社の岡田晴基取締役上席常務は、購買・調達体制整備の肝要は「標準化とパートナーシップの構築」と話す。部材標準化の動きでは、入手しやすい市場標準品の採用推進、過剰仕様・品質規格の見直し、部材共通化、部品点数の削減などに注力した。これらを基盤に月1回、「ローコスト戦略会議」が開かれ、全社横断的に、標準化とコスト削減施策を展開した。

取引先とのパートナーシップ強化では、取引先の評価を明確化することを柱の一つとした。四半期ごとのQBR(Quarterly Business Review)やSPR(Suppliers' Performance Review)といった評価制度を設け、「品質」「価格」「生産」「技術」などの項目別に評価し、その結果をもとに、意見交換、課題の共有をおこなう。同社はSPRを通じて、優良な取引先への集約化を図り、それまでの1,000社から300社とし、これら各社との幹部レベルでのパートナー関係を強化した。

同社は今後、BCMを社内、グループ内だけのものとは捉えず、「外部」にまで広げていくことを考えている。BCM能力や、災害への対応状況や復旧にかかる時間など、重要な部品の供給継続能力を評価し、取引先のBCM能力を部品単位で把握、サプライチェーンで不測の事態が発生した場合、重要な製品・サービスへの影響度を計り、迅速な対応のできる態勢つくりにつなげる。評価結果に基づき、取引先に対し、事業継続能力の強化に向け、支援し、サプライチェーン全体の継続性を強化していく意向だ。さらに、評価結果は部品選定の指標にもしていく方向だ。

同社ではすでに、取引先の製造拠点の場所、緊急時の連絡先などの情報をデータベース化しており、工場/品種単位で2,500社分を登録している。災害が発生した場合、購買本部内に災害対策室を設置し、影響の出ている取引先を確認、対策にあたる。現状では、電話や電子メールにより確認が中心だが、製品部材取引を、インターネット上でEDIを用いて行うサービス「ProcureMART」と安否確認システムの連携も検討している。そのほか、技術要員、施設管理要員などを派遣する「BC支援隊」を編成する。

また、FRIは富士通の取引先に対する評価モデルを活用した「サプライチェーン継続性評価サービス」を、2007年度下期に提供する。FRIでは従来、大企業/中堅企業向けに、BCPの全社的な策定やIT部門での策定などについてのコンサルティング、これら企業の特定部門向けにはBCP策定講座などをサービスとして提供してきたが、今回の「サプライチェーン継続性評価サービス」は購買部門を対象に、調達先のBCM評価を基盤として、調達戦略策定のコンサルティングを行う。「当初は電子部品などを扱う製造業」(平田宏通FRI副社長)を中心に展開していく見通しだ。