定型的な主業務には「基幹系業務システム」が対応し、日本ではこの導入も運用もおおむねうまくいっているといえます。これはITの用途の1つである「効率化」にかかわるもので、テクノロジによって機械(コンピュータ)が人間を代替してくれる、いわゆる「電算化」です。しかし、非定形業務や付随業務では、こうした形の電算化は馴染みません。この分野で必要なのは「人間をサポートしてくれるIT」です。もともとは1980年代に「Lotus Notes」の登場から始まったこの分野と電算化との本質的な違いは、「人がいなくてもよい」のではなく、「人がいることを前提に、人のパフォーマンスを最大化する」ことを目的としている点です。

日本は、電算化に関してはうまく取り入れて実現したのですが、後者の分野に関してはごく最近まで本格的な取り組みがなされていませんでした。それでも日本の企業がなんとか回っていたのは、日本の従業員が平均して高いレベルの教育を受けており、労働に対する意識や倫理観も高いといった社会的背景によるものです。コンテクスト(文脈)が高度に共有された労働環境で協業する状況ができあがっており、ITツールに頼らなくても仕事の仕組みができていたのです。

しかし現在では、そうした環境も変化してきています。業務にかかわってくる可変因子/影響因子は飛躍的に増大しており、その複雑さはすでに社員間の「あうんの呼吸」で処理することは不可能なレベルに達しています。とはいえ、つい最近まで「そこはあうんの呼吸で処理する」という前提で皆が動いていたため、この分野に関する認識も関心も薄いのが現状でしょう。

しかし、最近になって情報漏洩などが深刻な問題として認識されるようになってきました。ITによって効率的に集められた大量かつ詳細な情報が漏れた場合、「社長の首が飛ぶ」状況もあり得ます。業務の電算化は企業内部の問題なので、仮に失敗しても社長の首が飛ぶような事態にはなりません。しかし、情報漏洩ではそうはいかないため、経営層が急に関心を寄せるようになってきたという状況です。