楽天は、東京電力傘下の通信事業者、フュージョン・コミュニケーションズ(以下、フュージョンと略)の株式を取得、連結子会社化すると発表した。楽天がインターネット上で展開しているさまざまなサービスと、同社のIP電話サービスを組み合わせることにより、楽天を中核としたサービスが形成する市場の規模を拡大することを狙う。今回、楽天は子会社の楽天メディア・インベストメントを通じて、同社の普通株式106,527株を取得、議決権比率は54.27%となる。取得額は6億7,300万円。また、これにより、東京電力は事実上、通信事業から撤退することとなる。

楽天の三木谷浩史社長(左)と東京電力の勝俣恒久社長

楽天は、電子商店街である「楽天市場」を基盤とする電子商取引を中心に、個人向け融資、クレジットカード、決済サービス、証券などの金融、ポータル・メディア、旅行代理業、証券、さらには、野球、サッカーなどのプロスポーツに至るまでの事業を手がけており、楽天グループ会員は約3,700万人に達している。同社では、これらの事業の全体を「楽天経済圏」と呼んでいる。

同社は「楽天経済圏」をいっそう拡大することを目指し「楽天カードや、ポイントなどを活用して、インターネットの外部の経済を取り込むことが重要なポイント」(三木谷浩史社長)と考えており、「ネットに乗っていない層も引き込み、楽天コミュニティを拡大する」ことを図る。

フュージョンは、他事業者の回線と自社ネットワークによる中継回線を利用して料金を格安にする、いわゆる中継電話の「東京電話」、IP電話「FUSION-IP Phone」などを事業としている。2007年3月期の売上高は541億1,100万円、営業損益は14億5,200万円の赤字、最終損益は14億5,500万円の赤字だった。楽天の島田亨常務は、フュージョンは楽天のグループに入り、協業することで「顧客基盤が強化できる」と指摘、「来期には黒字転換が見込まれる」としている。

同社はフュージョンを買収する理由として「インターネットの外につながる音声通話サービスと、Webを利用したサービスを融合させた『Voice』×『Web』による新しいビジネスモデルの構築」、「オフラインユーザーとのコミュニケーションを可能にすることで、楽天経済圏の規模を拡大する」、「フュージョンの加入者、楽天の会員を相互に利用することで、両社の売上高を向上させる」、「楽天のオペレーション力でフュージョンの収益力に貢献する」、「フュージョンのIPネットワーク技術力を楽天のサービスに活用する」──との5つの項目を挙げている。

楽天では、会員同士のコミュニケーションを実現するサービスとして、この5月から「楽天メッセンジャー」を提供、ユーザー間で、同時に複数の相手と文字や音声をリアルタイムに交換することができる。同社は今回の買収により、フュージョンの展開しているIP電話の「050番号」を楽天会員に付与して、「楽天メッセンジャー」から電話網へ接続するなどの融合サービスや、メッセンジャーサービス、音声通話を利用した成果報酬型広告(PPC: Pay Per Call)を検討している。PPCは、検索結果に応じて、広告主への電話番号が掲載され、ユーザーがその電話番号へコールすると課金される手法で、電話回数に応じて広告料金が決まる。PPCについて同社では「ネット完結型ではない、保険、不動産といった、説明が必要な高額商品」(三木谷社長)に適しているとみている。

今回のフュージョン買収で、楽天は通信事業にも本格的に参入するわけだが、いまのところは「楽天経済圏」の成長戦略の一環との位置づけで、「ソフトバンクのように、大きなインフラをもって事業をしていくという考えはない」(同)。現在、総務省が2.5GHz帯での新たな無線ブロードバンドサービスの免許を新規事業者に割り当てる方針を示しているが、同社は無線サービスへの取り組みの意思も否定した。フュージョンの大島悦郎社長は、「当社が楽天グループの一員になることは、新たなチャンスだと考えている。IP技術には自信をもっている。これを活かし、楽天の強みを組み合わせ、新しい、価値あるサービスを提供していきたい」と述べた。

フュージョン・コミュニケーションズの大島悦郎社長

一方、東京電力は、今回のフュージョン売却で、通信事業からはほぼ手を引くことになる。同社は、2005年10月に通信事業でKDDIと包括的に提携する方針を決め、KDDIは東京電力の子会社だった電気通信事業者パワードコムを2006年1月に吸収合併、さらに2006年10月、東京電力の光ファイバーサービス事業を統合した。フュージョンはパワードコムの子会社だったが、KDDIは設備が重複して相乗効果が期待できないなどの理由でフュージョンを買収しなかったため、東京電力は同社の売却先を探していた。東京電力の勝俣恒久社長は「20年、通信事業をやってきて、FTTHなどの社会的インフラを構築できた」と語った。