NTTデータが、次世代の「モデル指向開発技術」への取り組みを強化する。

同社は、専門チームを設置するとともに、この分野での先進的な技術を持つ独ikv++社(アイケイブイ・プラスプラス)と協業、同社のモデル管理機能を提供する基盤ソフトウェア「medini」を中核としたモデル指向開発ツール群を整備する。また、同社が新たに設立する日本法人に出資し、国内の技術サポート体制を整える。

「モデル指向開発技術」は、ソフトウェア開発の方法論で、システム開発の設計を記述する際、その表現を人間が読み書きする「文書」ではなく、コンピュータ側が解釈することが可能な「モデル」を採用する。

現在、一般に、システム開発のプロジェクトでは、作業工程ごとに要求定義、設計書などの開発成果物を作成し、それらを詳細化していく手続きを段階的に進めることで開発作業を実行しているわけだが、これらの開発成果物は文書で表現されることが多く、日本語などの自然言語による表記が主として用いられることになる。そのため、ワープロソフトなどで作成された開発成果物は膨大になるとともに、その内容は意味が曖昧になることもあり、誤りや誤解の原因にもなる。さらに、自然言語で書かれた開発成果物はコンピュータによる解釈が困難であることから、開発作業の機械化への妨げとなる。

モデル指向開発は、このような問題の解決策として位置づけられている。この手法では、各開発成果物の構造と意味は、「モデル」を用いるとともに、その表記法としては、自然言語に比べてより形式的な表現が可能であるUML(Unified Modeling Language)などの図表表現を用いる。開発成果物を「モデル」で表現することにより、厳密であるとともに高い抽象度で簡潔に定義することが可能になり、誤りや矛盾が発生することを減少させ、開発者間の誤解を防止できる。さらに重要なのは、コンピュータも開発成果物を解釈することができる点だ。これにより、設計・製造作業の自動化、一貫性チェックの実施などの開発作業の機械化が可能になる。NTTデータ公共ビジネス推進部の斉藤信也 技術戦略部長は「作業の機械化により、開発の精度は高くなる。開発成果物の質が向上すれば、システムトラブルも減る。開発工程の2-3割を省力化できる」と話す。

NTTデータでは、次世代のモデル指向開発を実際の開発プロジェクトで適用させることを推進するため、実践的なプロジェクト支援を担う専門チームを12人体制で新設する。同チームは、モデル指向開発の基本理念に準拠した開発手法と、開発ツール群を現場で適用できるようにすることを図る。同社は、2010年度までに、年間で50を超える開発プロジェクトへの適用を可能にする体制を構築することを目指す。

同社は2002年から、技術開発本部でモデル指向開発の基礎研究に関する取り組みを始めており、ここで培ったモデル駆動アーキテクチャについての技術の蓄積と、同社のWeb開発フレームワーク「TERASOLUNA」を活用し、2007年からはモデル指向開発技術を活用した開発技法を展開している。

今回、同社は、これらの研究の成果を軸に、ikv++と共同で次世代のモデル指向開発を支える新しい開発ツール群「FLEXITE」を整備した。これは、ikv++が提供するmediniを基盤としている。mediniは、モデル管理機能を支える基盤ソフトウェアで、分散オブジェクト技術の標準化団体「OMG(Object Management Group)」が定めた標準技術仕様に準拠している。このソフトは、設計成果物の構造を定めるメタモデル定義を与えることで、任意の開発成果物を管理対象に追加することが可能で、コンピュータが解釈できる開発成果物をリポジトリ内で一元的に扱い、成果物の形式変換、一貫性検証、コード/ドキュメントの自動生成ができる。ikv++のオラフ・カートCEOは「mediniは、ツールとプロセスを統合するインフラであり、モデル指向の開発スタイルを支援する」と述べている。

「FLEXITE」は、NTTデータのモデル開発技法と関連するノウハウを組み込んでおり、「TERASOLUNA」に準拠した開発成果物を、コンピュータが解釈できる形式で格納するリポジトリと、人間が編集するユーザーインタフェースを用意している。専門チームとikv++社は共同で、これらのツール群を引き続き、改善していく方針だ。また、両社はアジア太平洋地域で、medini技術のユーザーへの適用支援でも協力する。現時点では「FLEXITE」を外販する予定はないが、「市場からの反響があれば検討する」(斉藤部長)としている。

NTTデータは、モデル指向開発技術を活用した開発技法を進展させることを、中期経営計画におけるSI競争力強化施策の一つとして推進している。今回のikv++社との協業は、この施策推進の一環となる。

ikv++の日本法人は2007年6月1日に設立され、資本金は1,000万円で、NTTデータはikv++に8.9%の出資をするとともに、Supervisory Board(監査役会)に役員を1人派遣する。同社は、システム・インテグレーション、組み込みソフトウェア開発へのモデル駆動技術適用のための製品・サービスを提供する企業で、1994年に創設され、ドイツ、ベルリンに拠点を置いている。NTTデータ、日立INSソフトウェア、サムスン電子、トヨタ自動車グループなどがすでにmediniを採用している。