--ITの効果を見えるようにして、ITコストを適正化するには、どうすればよいのでしょうか。

まず、ITがもたらす効果をうまく測れていない点があるかと思います。ITの効果には、「インフラ的」「経済的」「戦略的」という3つのタイプがあり、インフラ的と経済的は、従来のIT投資で主に問われてきた効果です。電子メールのようにビジネス上不可欠なインフラがもたらす効果だったり、業務の効率化によりコストをどれだけ下げられたか、人を何人削減できたとかのようなものです。

ただ、ある程度IT化が進むと、インフラ整備、業務の効率化という観点でのIT投資はあまり行われず、ビジネス戦略を実現するためのIT投資が増えてくる。つまり、ITに求められるのは戦略的な効果であり、効果を測るには、従来とは違った指標が必要になってきます。

--それはどのような効果指標なのですか。

例えば、サービス業なら顧客満足度やサービス品質の向上、製造業で言えば、在庫量削減、リードタイム短縮といったものでビジネス戦略にITがどれだけ貢献しているのかを見るのですが、ビジネス戦略は最終的なゴールなので、その達成度合を測るには、いくつものの先行指標、KPI(Key Performance Indicator)が必要になります。これらのゴール、KPIを定義し、継続的にモニタリングしてはじめて、ITの戦略的な効果が測れるのです。

ところが、現在は、効果指標の定義すらされていません。戦略的な効果を見るべきところで無理くり経済的な効果を算出しようとしている、定義はしたもののシステムが運用フェーズに入ったとたん、誰も責任を持って測定/評価しなくなるなどのケースが多く見受けられます。「ITの効果がわからない」と言っているものの大半はこれでしょう。

--そうなると、かなり組織的なマネジメントが必要になってきますね。

そうです。大元のIT戦略はもちろん、ITにかかわるストラクチャ(組織構造)、判断のクライテリア(基準)、プロセスを定めるITガバナンスの仕組みが必要になってきます。

従来ならプロジェクトごとに決めていた手続きを企業として標準的に決める。その中で、ITの効果を測るプロジェクト共通の指標、それもインフラ投資ならば標準技術への適合度が何%以上、業務効率化ならばROIで何%以上といったことを投資カテゴリー別に決めることで、個別プロジェクトでの効果指標を定義/モニタリングするやり方も定まってくると思います。

--ITガバナンスは、日本の企業が苦手とするものですね。

「ITの効果」云々の前に、そもそもITプロジェクトの7割ぐらいがコスト/納期が超過したり、品質問題などを抱えたりして、何らかの割合で失敗しているという現実があります。ITガバナンスにより開発を標準化することで、こうした失敗要因を取り除け、効果をより適正に見ることができます。

実際、企業によって温度差はありますが、ITガバナンスを重視し、その仕組みの整備に取り組む企業は増えつつあります。日本版SOX法へ対応するためのIT全般統制に取り組まなければならなくなっているのも、追い風になっています。