活用したのは一般のPCとLinux、それにクリスマス休暇

今回の記録達成において特筆すべきは、特別な機材やOSは一切使っておらず、一般の店で購入できる機材や、オープンソースソフトウェアとして入手可能なOS/ソフトウェアを使っていたところだ。具体的には、Xeom 3.0GHz dual core、SUPERMICRO X7DBE M/B、4GB主記憶メモリ、Chelsio S310E-SR10Gigabitイーサネットアダプタ(PCI-Express x8)などのハードウェアが使われ、CentOS 4.4 / Linux kernel 2.6.18.5 x86_64といったOSが採用されていた。

計測に使用されたハードウェア

中身は一般のPCと同じだ

30,000kmを越える専用(準標準)パスはGLIF(Global Lambda Integrated Facility)関係者の協力によって確立されたものを使用している。クリスマス休暇から正月というネットワークが閑散とする時期に狙いを定めて測定用パスを用意したという。

レイヤ間協調最適化技術とゼロコピーTCP

記録樹立にあたっては、ハードウェアの高速化以外にも、レイヤ間協調最適化技術(ペーシング)とゼロコピーTCPという2つの技術が重要になったという。以下、それぞれについて簡単に紹介していこう。

レイヤ間協調最適化技術は、端的に言うと、ネットワークインタフェースのハードウェアレベルであらかじめパケットロスが発生しないサイズを調査し、そのサイズでパケット送信するというものだ。実験では、ネットワークインタフェースカード内の書き替え可能なプログラム領域にそうした処理を書き込んだ。ソフトウェアレベルで同様の処理を実現している例もあるが、やはりハードウェアレベルで行ったほうが高速な通信が可能だという。

ゼロコピーTCPは、ユーザメモリとカーネルメモリの間で発生するデータのやりとりをソフトウェアレベルで抑制することで通信速度の向上を実現するというもの。これは決して新しい試みではなく、よく知られた手法の1つだ。今回の測定では、mmap(2)を使って、用意したファイルにデータの書き出し/読み込みを行うことで実現している。名称や実装領域は異なるが、ゼロコピーTCPと類似した技術は各種OSに取り込まれている。mmap(2)以外にもsendfile(2)を使って実装することも可能だ。

今後の展開

この取り組みはもともと、研究データの共有などを実施するにあたり、遠距離間における高速なTCP通信が不可欠だったことに端を発している。研究データを高速にやりとりできる環境が整い、リアルタイムの情報共有が可能になれば、研究を効率化するうえで大きな手助けとなる。今回の記録樹立は、こうした研究インフラの確立に対する可能性を示すものとなった。

今後は10Gbpsを越える通信において高い通信性能を実現していくことが課題となる。複数の通信パスを使って高性能通信を実現するといった取り組みが次のステップになるだろう。

研究チームが獲得したトロフィーの数々。2004年から通信記録を叩きだし続けている